月の輪通信 日々の想い
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夏休みに入った。
小学生は学校のサマースクールやプール、中学生は部活、そして母は、来たる夏祭りに向け て子供会の仕事で忙しい。
入れ替わり立ち替わり、誰かが出掛けていき、誰かがお留守番。
そのスケジュール管理は結構大変。
今年もアユコが大きな紙に、夏休み中のカレンダーを書いて、一人一人の予定が別々に書き 込めるようにしてくれた。
お盆の頃までびっしりと埋まる予定表。
その合間に3食のご飯を作り、アプコのプールにつきあい、宿題のハッパをかける。うううっ、 先週終業式で夏休みに入ったばかりというのに、すでに母は息も絶え絶え・・・
さておき。
朝から、何かの拍子にふっと気がつくゴージャスなかおりがある。
カサブランカ。
今朝、我が家の庭から切ってきた物だ。
なんとなくベランダから庭を見下ろして「やっぱり草ひき、しなくっちゃなぁ。」なんてぼーっとして いたら、思い掛けないところに大輪の白いユリ。
数年前に、ちょっと高価な球根を購入し、気まぐれに植え込んだまま忘れていたものだ。
近くに植えてあった時計草が予想以上に茂って日照を奪ったため、たいした花は見られないで いたが、今年は邪魔な時計草を思いっきり刈り込んだので、ようやく本来の大輪の花を付けた のだろう。
そのまま庭の片隅で花を終えるのも可哀想と、二つ咲いた純白の花をどちらも摘み取り、一つ はおばあちゃんちへ、一つは我が家の居間に飾ってみた。
花首がとても重くてて、一輪ではとても扱いにくい。
口の細い花器にやっとの事で活けると、すぐに家の中にユリの甘やかなかおりが満ち始めた。
実のところ、私はカサブランカのような大輪系のユリが苦手である。
好きな物ばかりを無節操に植え込んだ我が家の庭は、「コボレダネでもよくふえる」式の小さな 草花と、お茶花用の山野草、そして、実益をかねたハーブが少し。なんの脈絡もなく、好き勝手 に散らばっている。
管理人以外は、どれが雑草でどれが植えてある花なんだか判別不能。
間違っても子ども達に「草ひき、やっといて」とは言えない状態だ。
当然、花屋さんの店頭で、特等席に置かれるようなユリやバラはなんとなくなく収まりが悪く、植 物自身も先住者に遠慮してかいまいち華やかさを発揮しないままに絶えてしまうことが多い。
そういうわけで、庭では居心地の悪そうなカサブランカを早々につみ取って部屋へ持ち込んで はみたのだけれど、乱雑に散らかった生活臭あふれる我が家の居間でも、華やかな花姿はど うも収まりが悪い。
似合わぬ高価なアクセサリーを身につけて歩くような体に沿わない落ち着かない感じがいつま でも残る。
その前を通るたび、見て見ぬ振りで視線を逸らす私をたしなめるように甘い香りが後ろから絡 みつく。
何とも自己主張の強い花だなぁと、半ば苦笑しつつ、やり過ごす。
夜、子供らが寝静まった暗いリビングに、涼やかなかおりが満ちる。
薄暗闇に守られたカサブランカは、昼間の高慢な表情を失い、静かにすっきりと背を伸ばして いる。
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