月の輪通信 日々の想い
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子供会の仕事で連日、会館通い。
地域の夏祭りに向け、子供らと御神輿をこしらえたり、村の祭りの寄り合いに参加したり・・・。
夏休み前半は、母のスケジュールが一番過密気味。
疲れた。
忙しい合間を縫ってアプコを若宮のプールへ連れていく。
このプールは私市の村が幼い子供らのために神社の一角に無料で開放してくれている小さな プール。保護者が一夏に一回ずつプール当番をして、運営している。
我が家の子ども達はみな、おむつが取れるのを待ちかねて、毎年ここのプールのお世話にな ってきた。
大きい子や大人は入れないお子さまプールなので、小さい子らものんびりと水と戯れることが 出来る。午前2時間、午後2時間。短時間だけの開放なのもおつきあいの母には有り難い。
「若宮へ行くぞ!」の号令のもと、水着に着替えた子供らをサウナと化した軽自動車に詰め込 んで、ぶんぶんと精勤にプールに通う。
それが我が家の夏の定番だった。
今年はオニイが中学にあがり、アユコやゲンも大きくなって小学校のプールに行くようになり、 村のプールに入るのは、アプコだけ。
さすがに母には「いくぞ!」という勢いはなくなってきたが、プールの楽しさが判りかけてきたば かりのアプコにとっては、若宮プールの青い水面のワクワクもこれからが本番。
「今日は若宮行く?」
「今日はプールあいてる?」
とにぎやかかなことだ。
「オカアチャン!オカアチャン!」
アプコが何度も母を呼ぶ。
去年までは背丈も小さくて、プールの縁をつかんだまま、一人では一歩もへりから離れられな い状態だったアプコ。
今年はなんとか一人で浮き輪に捕まってプールの真ん中まで行けるようになった。
嬉しそうにピョンピョン飛び跳ねたり、水面を叩いて水しぶきをあげたり、一人で気散じに水と 戯れる。
「みてみて!オカアチャン!」
なんの拍子にか、水の中でアプコの足がプールの床面を離れた。
浮き輪にしがみついて、自分の体が水に漂う感覚を初めて自覚したアプコ。
興奮してバタバタ水を掻いたら、ふわりと体が前に進んだ。
「泳ぐ」ということを、生まれて初めて発見したアプコ。
その驚きの瞬間を、4人目にして初めて母も一緒に共有することが出来た。
誰が教えたというわけでもないのに、水中のアプコの足はすぐにバタ足になる。
プカプカ浮かぶ浮き輪の舟で、アプコは一人で旅に出る。
うっとりと水音に耳を傾け、何度も何度も母を呼び、すっかり魚の気分で水の誘惑を楽しむア プコ。
いいなぁ。
水と戯れる楽しさを子供らはこんな風に覚えて行くんだな。
思えばオニイたちを連れて、怒濤のようにプールに通っていたあのころ。
子ども達が危ない事をしないように、どこかで溺れたりしないようにと目を光らせるだけで精一 杯。子供らの喜びの表情や驚きの瞬間に気付く余裕もなく、プールが終わるとどどっとくたびれ 果てていた私。
アプコ一人を連れて歩くようになって初めて「子どもが魚になる」瞬間を味わう余裕が出来たと 言うことだろうか。
テレビで見る世界のベストスイマー達の計算し尽くされた美しい泳法。
限りなく魚に近づく美しいフォーム。
アプコの「浮き輪でプカプカ」とは、比べるまでもないけれど、「オカアチャン、わたし、泳げた よ!」と、何度も繰り返す得意げな顔は、表彰台のスイマーの勝利の笑顔。
今日、アプコが魚になった日。
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