月の輪通信 日々の想い
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2003年07月30日(水) オニイのエプロン

学に入って、美術部に入ったオニイ。

夏休みになって、初めて油絵に挑戦。

一週間通って、初めての油彩画を一枚、仕上げて帰ってきた。

「おかあさん!ちょっと油絵らしくなってきたよ」

夏休みに入って数日め、オニイが嬉しそうに報告してくれた。

「先生ってすごいよ、先生がちょっちょっと筆を入れてくれたら、僕の絵がダビンチみたいにな
る!」

・・・・ダビンチに失礼でしょうが。

とりあえず生まれて初めての油彩画に心弾ませているオニイが微笑ましい。



「ありゃ、やっぱり!」

オニイの白い制服のポロに案の定油絵の具のシミ。

だからエプロンがいるよっていったのに。

実は最近、工房でのお手伝い用に、子ども達にエプロンをこしらえた。帆布を使って、それぞ
れのサイズにあわせたシンプルなエプロン。胸にそれぞれの名前を小さく縫い込んでみた。

仕事場をうろちょろするとき、ただでさえかさの高い子ども達。お手伝いするときには「仕事中
です」を内外にアピールするために、ユニホームがわりに使う予定だった。普段は家での料理
のお手伝いや、学校での調理実習の時などにもちらほら利用している。

「オニイ、今度からあのエプロン、持っていきなよ。」

ふんふんと生返事しているオニイに、無理矢理エプロンを持たせてみた。



数日後、お洗濯に出されたオニイのエプロン。

何故か、裏側ばかりに油絵の具のよごれがついている。

「オニイ、裏表間違えて使ったでしょ。しょうがないなぁ・・・。」

確かに裏表があまり影響ないデザインだけど、とりあえず名前の縫い取りがある方が表なんだ
けど・・・と言っておいたが、それからもずっと裏側の汚ればかりがふえていく。

「裏表、両方汚れるのもどうかと思って・・・」

オニイはしきりに言い訳するが、次第に母にも判ってきた。わざと裏返しに使っていたんじゃな
い?

心優しいオニイは、「恥ずかしいから名前書かないでよ。」とは言えなくて、ついつい裏返しに使
ってしまったものらしい。



先日の小学校での「七輪陶芸」教室。

アユコとオニイは講師である父さんのアシスタントとして参加してくれた。

初めての陶芸体験にはしゃぐ同級生や後輩達を相手に、道具を配ったり機材を運んだりとしっ
かり助手の職務を果たしてくれた。

「今日は講師の助手役です」と誇らしげにエプロンをつけて、駆け回るアユコに比べ、オニイは
卒業生ということもあってちょっと居心地わるそう。

とりあえず持参した絵の具つきのエプロンも、最初に少し使っただけでなんやかやと理由をつ
けて外してしまった。

「炭で汚れるよ。エプロンは?」

母が意地悪く聞いても、オニイはへらへら笑うばかり。

ようやく、「兄弟でお揃い」とか「母の手作り」とかが、恥ずかしいお年頃になったのね。それで
も、「恥ずかしいからヤダヨ」とは言えない小心者のオニイ。

なんかかわいいなぁ。



父さんの仕事着は、いつもジーンズにデニムのエプロン。

釉薬や土の汚れで、ガンガン洗濯を繰り返し、色あせ、すり切れ、くたびれていく。

いつも、土の付いたヘラをプイと拭う膝の部分は、そこだけ早く穴があく。

個展前など激務の続いたあとには、どろどろに汚れたエプロンの山。洗濯機がじゃりじゃり言
いそうな激しい汚れ。

ぶつぶつ文句を言いながら、私は父さんのエプロンの汚れがひどいとなんかうれしい。それは
父さんの仕事が今日も充実していた証だから。



オニイの白い帆布のエプロン。

それぞれの子どものサイズに合わせて作ったが、オニイのはもうほぼ父さんのと同じ大人サイ
ズ。とりあえず、裏側は油絵の具のシミで彩られ始めた。

将来の展望の隅っこに、父さんの仕事をちらちらと意識し始めた12才のオニイ。

その白いエプロンはこれからどんな汚れを重ねていくのだろう。

ちょっと楽しみな母なのだ。




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