月の輪通信 日々の想い
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アプコを連れて、昼下がりのスーパー。
だらだらと蒸し暑くてぼーっとしてたから、スーパーのよく効いた冷房が気持ちよくて、必要以上 にのんびりとお買い物。
「アプコー、キュウリ探してー」
「ケチャップ、探してー」
と、ゆっくりお買い物ごっこ気分を楽しんでいた。
「こら!べたべた触ったらアカン!」
背後で、子どもを叱る女の人の大きな声。
アプコと二人びっくりして首をすくめそうになったけど、叱られていたのは、パック詰めのお魚を つんつん突っついている二人の3,4才くらいの男の子達だった。
「何遍言うたら、わかるの!ちゃんとついてきなさい。」
そうそう、このくらいの子ども達を連れても買い物って大変なのよね。何でも触っちゃうし、何か と欲しがるし、走るし、騒ぐ。
しかも、やんちゃな男の子ふたりじゃ大変だ。
我が家も今ではようやく連れ歩くのはアプコ一人になり、買い物もさほど苦にならなくなってきた けれど、幼い3人を連れ歩いていた頃は日常の買い物も本当に大仕事だった。
「おかあさん、がんばれー」
珍しく、人前でもしっかりと子ども達を叱るおかあさんの奮闘に、ちょっとエールを送りたい気分 になっていた。
・・・と思ってたんだけどね。
このおかあさん、いつまでもやたらとよく怒鳴る。
「そっちへ行っちゃダメ!まだわからんか!」
「それは買わない!置いてきなさい!」
「走っちゃダメって言ってるでしょ!」
とても地声の大きい人なのかもしれないけれど、ちょっとうるさい。
また、叱られる子どもも子ども。
おかあさんがどんなに大きな声で叱っても、二人が競い合うように、走る。触る。ケンカする。
おかあさんの大声も、彼らの頭上を空しく通過するだけで、ちっともアタマに入っていないよう だ。
昼下がりの静かなスーパーに母親のいらついた怒鳴り声がいつまでも続いた。
なんだろうなぁ。
子どもが商品を突っついても、騒いでも、走っても、人に迷惑をかけても、野放しで放っている 親もいっぱいいる。
見かねて注意した他人に喰ってかかる非常識な親だって結構いると聞く。
それに比べたら、この母親は、子ども達に「それはダメ!」とはっきり教え、人が見ているところ でも、怯まず大声で子どもを叱れる。
だからといって、いらだち紛れに叩いたり暴言を吐いたりしているわけでもない。
なのに、このいやーな感じ。
なんなんだろう。
「オカアチャン、みてみて。」
親子に気を取られている私の手をアプコがぎゅっとひっぱった。
さっき、男の子達がつついていたお魚やさんのパック。ラップされたトレーのうえで小振りのカ ニが、わずかにハサミを動かしているのだ。
「うわぁ、まだ生きてるね。」
きっと今の男の子達もこのカニを見つけて、突っついてみたくなっちゃったんだね。アプコもこ わごわラップ越しのカニをそっと突っついて、にっと笑った。
男の子達親子は、私たちのすぐ前でレジを済ませて、ずんずん帰っていった。
「飛び出したらダメ!危ないでしょ!」
最後の最後まで母親は、大きな声で子ども達の名を呼んだ。
レジのおばさんが、しょうがないねとばかり、私にちょっと肩をすくめて見せた。
あのおかあさん、ずーっと怒っていたけど、一度も子ども達を自分のそばに呼び寄せなかった な。
確かに子ども達の行動から目を離さず、一つ一つ、「だめ!」を連呼してはいたけれど、一度も 子ども達の目をみて叱らなかったし、自分の買い物の手を止めて子どものそばへ近づくことも しなかった。
遠く離れたところから大きな声で司令は出すけれど、結局子ども達の見ているもの、やってい ることに心を寄せることはしていなかったんだな。
だからこそ、子ども達もおかあさんの怒号をアタマの上で聞き流して、自分の興味あるもの、楽 しいことだけ追っかけていたのかもしれない。
いくら言葉を重ねても、声を大きくして叱っても、その心がきちんと子ども達に向かいあってい なければ、子どもの心には響かない。
「宿題しなさいよ」
「片づけ、済んだの?」
「ちゃんとやってるの?」
ただただ口癖のように毎日繰り返す子ども達への小言。
もはやそこに心なんてないよなぁ。
道理で、どの子もふんふんと軽ーく聞き流してくれるワケだ。
壊れたスピーカーのように、男の子達を叱り続けるおかあさんの顔は疲れた仮面のようで、怖 かった。
だめだめ、あんな顔してちゃ。
いくら叱っても子どもは離れていっちゃうよ。
帰宅して、ざぶざぶと顔を洗い、鏡にむかって、ニヤッと笑顔を作ってみた。
夏休みもようやく後半戦。
そろそろ追い込みだぞ。
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