月の輪通信 日々の想い
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2003年08月21日(木) 「頼もーっ!」

夜、オニイが初めてよその剣道の稽古に出る。

先日、道場をお辞めになった、オニイあこがれのK先生が、教えて下さった武道館での夜の大
人のための稽古だ。普段、オニイ達が教えていただいている先生方や高校生大学生の先輩
達が大勢、来ていらっしゃるらしい。

中学生になったとはいえ、まだまだへなちょこ剣士のオニイが、有段者ばかりの本格的な稽古
についていけるかどうかもおぼつかない。

おまけに、K先生が道場をお辞めになった原因が、どうも今教えていただいている先生方との
間に何らかの行き違いにあった模様。

その双方の先生方が来られる稽古に、K先生のお誘いで参加させていただくというのも、なか
なか人間関係の微妙な部分が気にかかる。



「オニイ、ホントにいくの?大丈夫?」

出掛ける直前まで何度も何度もオニイに念を押す。

「大人の稽古についていけるの?邪魔にならない?F先生は参加していいと言われたの?」

私があまりにしつこく聞くので、とうとうオニイが言い放った。

「大丈夫。あなたの息子を信じなさい」



「ねえねえ、そもそも何でそんなに武道館の稽古に行きたいの?」

K先生にお会いしたいだけなのか。

本当に剣道の稽古をもっと厳しくやりたいのか。

それとも、「行きたい」と言ってしまったら引っ込みがつかなくなってしまったのか・・・

いろいろ、聞き方を変えてみたけれど、オニイはついに明確な答は教えてくれなかった。

「たぶんね、お母さんには理解できないよ。一生ね。」

何が「一生」だい!

たった十何年の人生のくせに・・・。

あたしゃ、アンタの3倍ちょっと、生きてるよ。

大人ぶったセリフが心地よかったか、何度も何度も「一生!」を繰り返すオニイ。

わかったよ。頑張って行っておいで。

でも帰りは、電車で一人で帰って来るんだよ。



オニイと重い道具袋を車から降ろしてバイバイ。

「頼もーっ!」

若武者がきりりと口元を引き締め、新しい道場の門を叩く。

そんな時代劇のワンシーンが目に浮かぶようで、なんだか可笑しい。

歴戦の猛者揃いの道場で、へなちょこ若侍のオニイは、どんな顔をして稽古に挑むのだろう。



「ただいまーっ」と帰ってきたオニイ。

武道館デビューはまずまずの滑り出しだったらしい。

「うわっ、汗臭・・・。」

オニイの脱ぎ捨てた剣道着は、稽古の汗を含んでじっとり重く、強烈な匂い。

まさしく、オトコの匂いだわ。




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