月の輪通信 日々の想い
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夏休みもおわりだ。 宿題もぼちぼち片付きつつあるので、午後から少し離れたショッピングセンターに出掛ける。 一人500円の大盤振る舞いで、カードだのビーズだの思い思いの買い物を楽しみ、夕食の買い出し。 パック詰めのにぎり寿司をバンバン、カートに入れる。 今日は父さんのおごりだ。 「あれも買っちゃえ。」 精肉売場の特売。 さいころステーキ、パック詰め放題、500円。 ステーキといっても、牛肉の端肉を成形して四角いさいころ状にまとめた、うそっこステーキ。 安っぽいお子さま向けのメニューなのだけれど、うちの子ども達、ことに、オニイはこのインチキステーキが大好き。 ジャジャッと炒めて、たれを絡めるだけのお手軽さだ。
「アユコ、詰め放題だって。君の責任でめいっぱい詰め込むように。」 几帳面なアユコの性格を見込んで任命。 20cm角の透明のケースに、お肉のさいころを一個づつ、規則正しく詰め込んでいく。 「じゃ、頼んだよ。」 とアプコを連れて、別の売場へ。 しばらくしたらアユコが、「オニイと交替してきた。」 「え〜っ、オニイ?」 「横からいろいろ、うるさいから交替したの。」 「ふ〜ん、オニイねぇ・・・。」 別にいいんだけどね。 兄弟の仲で一番、整理整頓の苦手なオニイ。 どうなんだろうなぁ・・・。
果たして、オニイが持ってきた詰め放題さいころステーキ。 ぱっと見ただけでもなんとなく、隙間だらけで、効率よく詰めたとは思えない。 「アユやゲンがグチャグチャうるさいし、他の人が一緒に入れ始めたから、なんか格好悪くて・・・」 馬鹿者、大家族の食卓を満たすのに、格好を構っていられますか。 「ま、いいわ。これがオニイの詰め放題ね。」
「詰め放題」って、微妙にその人の性格見えるよなぁ。 おおざっぱにざっと詰めて、よしとする人。 きっちり詰め方を考えて、何度も詰め直して見る人。 そして、蓋が閉まらないほど積み上げて、どうだとばかり胸を張る人。 他の人が隣で詰め始めると妙に対抗心を燃やす人。そそくさと適当に切り上げる人。 アユコの作業を横から見ていて、 「オレならもっと上手く詰められる」と、交代しながら、なりふり構わず詰め込む大胆さもない。 お人好しで小心者、でもプライドは高いオニイらしい「詰め放題」 ちょっと可笑しかった。
レジのおばさん、さいころステーキのパックにちょっと手元を止める。 「充分、入れていただけました?」 オニイの隙間だらけの「詰め放題」が気になったらしい。 「全権委任した子どもが、これでいいと言うんで・・・」 と、笑いながら弁解。 「もっと詰まりますよねぇ。」 「そうですね、皆さん、結構きっちり、詰め込んでこられますよ。」 「あはは、いいです、これで。」 欲のないことで・・・。 ま、これはこれで面白かった。
几帳面に、きっちり詰め込んで、きっちりフタを閉めるだろうアユコ。 途中で適当に手を抜いて、隣に人が来ると、決まり悪くてそそくさ退散するオニイ。 ゲンなら、適当に山盛り詰め込んで、申し訳程度にフタをのせて、「はい、できた」といいそうだ。 小さいアプコは自分の食べる分だけ入れて、「あとはやっといて・・・」なんて言うかもしれない。
さてさて、人生の詰め放題。 一番たっぷり詰め込んで、充実した日々をつかむのはどの子だろう。 おいしい人生のステーキは、くれぐれもまがい物のインチキステーキではない、本物を味をあじわうように・・・。
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