月の輪通信 日々の想い
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2003年09月03日(水) 乗ってかない?

母に続き、今度は父さんが秋休み。

「取材」 という名目で、一人で車を走らせて、高知の海を見に行った。

うるさい日常を離れて、リフレッシュして帰ってきて欲しい。



数日前から、お隣の裏庭の擁壁の工事中。

コンクリートミキサーやら土砂を積んだダンプやらがハイキングコースの細い道を何度も行き
来する。

昨日も、アプコと手をつないで歩く道すがら、道路脇の茂みに潜り込むようにして大きなダンプ
カーをやり過ごした。



「アプコーっ!いそげーっ!幼稚園バス、いっちゃうよ。」

今朝も大慌てでスニーカーをつっかけ、鍵をかけて、飛び出していく。

今日も暑くなりそうだ。

お隣では、もう満載してきたバラスの荷下ろしを終えたダンプカーが、次の荷を取りに下ってい
こうとしているところだった。

道幅の広いところで、アプコを引き寄せ、ダンプを先に行かそうと振り返った。

「乗ってかない?」

すれ違っていくダンプの運転席から、思い掛けなく声がかかった。

突然のことに、ぽかんとしていると、

「下までいくんでしょ?」

見ると運転しているのは、隣の工事で毎日姿を見かける茶髪のオニイチャン。

「あ、いいです。いつも歩いてるから・・・」

ようやくお断りして、付け加える。

「ありがとう。」



何度も何度も、土砂を積んで行き来する現場への道のり。

太ったおばさんと幼稚園児が歩いて下って行くには、遠すぎると思ってくれたのかな。

アプコの足でも15分足らずの道のりも普段、車で通過していて歩いたことがない人にとって
は、結構距離があるように思われるらしい。

雑木にかこまれ、だらだらのぼっていく山道は、ちょっと見た目は実際の距離以上に遠く感じら
れるようなのだ。

空荷で、下っていくだけのダンプの助手席に、ふうふう汗を掻きながら早足で下っていくおばち
ゃんと小さい娘を拾ってやろうかと、気遣ってくれたのだろう。



別に、あなたの厚意を疑ってお断りしたわけではないのよと知らせたくて、私はジャンバースカ
ートの胸につけた赤い万歩計をカチャカチャ、振ってみせた。

「あ、なるほど・・・」

茶髪のオニイチャンはニッと笑って、ブルルンと下っていった。



この残暑厳しい中、屋外で肉体労働に従事する人たちのエネルギーには感心する。若い元気
なお兄さん達が、日に焼けた首筋に玉の汗を浮かばせて、重い土砂を運んだり、足場を組ん
で塗装をしたり・・・・。仕事の時間内は頑強なロボットのように、実によく動く。

休憩時間には埃まみれの作業着のママで道ばたに座り込み、大きなペットボトルのお茶をガブ
ガブと一気飲み。

作業に取り組む仲間内では、年かさの棟梁を頭に微妙な上下関係があって、作業の分担も休
憩の時の席順もそれとなく定位置があるらしいのも、好ましい。

「働く」ということの原点には、こうして額に汗して、体を使って、こつこつと一心に作業すると言
うことがあるのだなと改めて思う。



ところで、私をドライブに誘ってくれた茶髪のオニイチャンは、ひょろひょろと背が高く、肉体労
働者らしからぬ細面の優しげな青年だった。

彼らが昼休みを取る路肩の木陰に、昨日はコミックではない薄手の新書版の書籍が2冊、しお
りを乱雑に挟んだ状態で置いてあった。

学生のアルバイト君が仕事の合間に夏期休暇の課題でもやっつけているのだろうか。

なんとなくその本の持ち主は、あの「乗ってかない?」のオニイチャンではないかという気がして
いる。

ちょっとさわやかな、いい青年だった。


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