月の輪通信 日々の想い
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暑い暑いと言いながら、我が家の周りにひたひたと秋の気配は、やってきている。 工房の玄関に、ハラリハラリと降ってくる桜の落ち葉。 毎朝、義母がきれいに掃き清めるけれど、翌朝になると、再びハラリハラリ。 日一日、少しづつ数を増やしつつ、落葉は着実に始まっている。
アプコとともに、園バスに向かって降りていく道筋。十分色づかないまま、枝を離れて落ちてきたどんぐりが目に付くようになってきた。 手をつないで、早足で歩いている途中に、アプコが唐突に「あ!」と、拾おうとするので、母は「おっとっと・・・」とつんのめりそうになる。 「まだ茶色くないね。」 「こっちのは、葉っぱつき!」 アプコは拾ったどんぐりを全部「プレゼント!」と私に渡す。バス停に着くまでに私のポケットには、からからとどんぐりコレクション。
「ねぇ、みどりのドングリにはドジョウはでてこないの?」 ??? 「ドジョウ?なんのこと?」 なんだかよく分からない。確かに「どんぐりころころ」の歌はよく歌っているけれど、「みどりのどんぐり」って・・・? どうやら、いつも「どんぐりころころ」は歌っているものの、その意味がよく分かっていないらしいので、道々、お話ししながら行く。
「お山のドングリが、池に落っこちてね・・・」 アプコは「ドジョウ」がお魚の名前だということも理解していなかったらしい。 「やっぱりお山が恋しいと・・・♪」もよく聞いてみると「おいしい・・・♪」と歌っている。 紙芝居や絵本でも、よく出てくるお話なのに、アプコのアタマの中にはいったいどんなストーリーが展開していたのだろう。
念のため、重ねて聞いてみた。 「・・・で、アプコは『ドジョウ』ってなんの事だと思ってたの?」 「めぇー。」 「めぇー?」 ??? 「お目目?」 「ちがう、めえー!」
しばらく考えて、ホイと合点がいった。 「ドングリの芽!」 そういえば、ほら、「ドジョウがでてきて、こんにちは♪」って言うじゃありませんか。 毎年、子ども達が拾ってくるドングリは、日が経つとおままごとのバケツや庭の木の葉の下で、にょきにょきと根っこを生やす。
拾ってきたときには、つやつやと宝石のように輝いていたドングリの殻は、根っこが生える頃にはすっかり艶を失い、そのかわりにたくましい根がのび、いつか緑のつややかな双葉を持ち上げる。 そんな些細な驚きを、今年のアプコはちゃんと覚えている。
「どんぐりは、おうちに帰りたくって泣いちゃったの?」 思い出したようにアプコが聞き返す。 「そうねぇ。泣いちゃったねぇ。」 拾ったドングリをアプコがぽ〜いと雑木の茂みに投げ込んだ。 「どんぐり、おうちに帰るかな。」
うんうん、帰る帰る。 春には、きっと、芽も出るよ。
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