月の輪通信 日々の想い
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2003年09月15日(月) 他流試合

朝から、男の子組は剣道の試合。

近隣の市の体育館で行われる試合なので、近頃あまり稽古も見てやる機会のなかった父さん
が、二人をつれていってくれることになった。

母は、女の子組とのんびりショッピングなど・・・・。



「子ども達にもっと試合経験を」と先生方が考えて下さった他流試合。

日頃、「勝つ」事にあまりこだわらない仲良し剣道を貫く子ども達に、先生方は「うちでは勝つ剣
道ではなく、きれいな剣道を教えるのだ」といつもあきらめ半分でおっしゃってくださる。

たしかに、勝敗にこだわらず、互いに励まし合い、悔しがる友の肩を抱くうるわしい友情は、う
ちの道場の誇りではある。

しかし、本来が球技のようにゲームに起源をもつスポーツと違って、「斬るか斬られるか」の文
字通り真剣勝負が本来の姿である剣道。パパーンと正面からの面が決まり、主審副審の旗が
一斉に揚がる気持ちの良い勝利の瞬間は格別のものがある。

のんびり門下生にはもったいないほど高段者揃いの先生方は、子ども達のおっとりした戦いぶ
りをさぞ物足りなく思っていらっしゃることだろう。

今回、個人戦だけではなく団体戦にも出場するという小学生組にとっては、ほぼ初めての他流
試合。子ども達以上に緊張しワクワクドキドキの大人達に勝利の女神は微笑むのだろうか。



戦績。

オニイもゲンも揃って2勝。

一回戦負けで涙を呑んで帰ってくるかと思っていたから、予想外の出来だと言っていいだろう。
一日蒸し暑い試合会場におつきあいして、くたびれ果てた父さんの表情も明るい。

「よかったね、父さんにいいところ見てもらえて。」

ふんふん、まあねと素っ気ないオニイ。

「おなかすいたぁー」と食卓をのぞき込むゲン。

「わ、汗臭っ。早くお風呂入っといで。」



ところで、実家の父は、どちらかというと、アルコールが強い方ではない。

家で飲むのは晩酌のビールを少々。仕事上、外で飲む機会は多かった筈だが、私は父が別
人のように酔っぱらってしまうのを見ることはほとんどなかった。

それでも、一度、ありゃりゃと言うほど、酔っぱらったのを見たことがある。

それはちょうど小学生だった弟が剣道の試合で好成績を上げた夜の事だった。

いつもと変わらぬ酒量にも関わらず、いつもより2割り増しのボリュームでしゃべりまくる父。

「息子が勝ったからといって、父親が人前でひゃあひゃあ喜べるかい、みっともない!」

父は何度も何度も、同じセリフを繰り返し、存分に酔っぱらった。

元気でやんちゃ、性格も悪くないけれど、お勉強はそこそこ伸び悩み。

「大器晩成」という言葉を何度も教えてきた息子の快進撃。

父はよほど嬉しかった事だろう。

「パンパンっと決まって、気持ちよかったなぁ。」

しゃべり疲れて眠るまで、父は何度も何度も繰り返した。

長女である私は、父には大事に育ててもらったとは思うけれど、「やっぱり男の子にはかなわ
んなぁ。」とつくづく思ったものだった。



「父さん、ビール、どう?」

「お、うれしいね。」

焼き上がったお好み焼きを肴に、発泡酒のグラスを空ける。

「二人ともなかなか頑張ってたよ。」

父とは違い、嬉しいことは嬉しいと素直に表情にでる父さん。

運動が苦手だった自分たちの子供時代を振り返り、「よく続いているよなぁ。」とストレートに感
心する。

自分で出来なかったことを、子どもがすこしづつ達成していくのを見守るのは、親にとっては至
上の喜び。



子ども達の頑張りが、こうして時々父母にご褒美をくれる。

今日のビール、もとい発泡酒は旨かった。


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