月の輪通信 日々の想い
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子供会の仕事で地区の子ども達40人あまりを引率して、ソフトドッジボールの大会に出掛け る。
うちの地区からは、低学年2チーム、高学年1チームが出場することになっている。アユコも高 学年チームの一員として出場させてもらった。
戦績。
低学年チームは、惜しくも一回戦、2回戦で、それぞれ惜敗。
高学年チームは決勝戦まで残り、僅差で準優勝となった。
たかが小学生のドッジボールとは思っていた。しかも低学年が怪我をしないよう、少し大きめの ボールを使うソフトドッジボール。
でもこれが結構燃えるんだな。
ひたすら「勝ちたい!」と一生懸命の子ども達。自分の失敗で点を取られて悔し泣きする少年 の健気さ。変な駆け引きやズルを許さない小学生の一途さが、何とも観客の心をつかむ。
「がんばれー!!」
と、普段、出さない金切り声をあげて、喉を枯らしてしまうのも、仕方がない。
「試合中、審判の判定や競技方法への抗議は受け付けない」
開会式の時に、そう明言された筈だった。
それなのに、やたらと親たちがしゃしゃり出ていちいち口を挟むチームがある。新興のマンショ ンの子供会のチームだった。
初っぱなの低学年の試合から、審判の判定についての抗議が入り、試合が30分近くのびた。
審判といっても、プロでも専門家でもない。
激しい抗議を受けるとついには言い負かされて、抗議した方の言い分が通ってしまう。
ボールが当たったと判定されたのに、「当たってない」とか、相手チームの当たった子を見過ご したとか、外野のヤジまで動員しての猛抗議。
いつの間にかスタッフしか入れないはずのコートの中にまでどんどん親たちが入り込んでいく。
その徹底ぶりに、他のチームもすっかり辟易してしまい、眉をひそめていた。
高学年の決勝戦。
予想通り、うちのチームがそのマンションチームと対戦することになった。
「審判がおかしいと思ったら、大きな声で、抗議しなさいよ。言ったもの勝ちなんだからね。」
「黙ってたら、むこうにいいように判定されちゃうからね。Mくん、アンタは6年だし、違うと思った ら、しっかり審判にいってやりなさい。」
大人達は口々に子供らに相手チームへのクレーム対策を吹き込んで、送り出す。
白熱した試合が始まり、果たして、相手チームの抗議やヤジも始まった。
小学生の球技とはいえ、体格もしっかりした子が増え、アユコの様なやせっぽちでも、その俊 敏さやしなやかさには目を見張る物がある。
剛速球を真正面に受け止め、間を置かずばしっと相手めがけて投げ返すその無駄のない少 年の動き。
舞踏家のように背を剃らし、小さく体を丸めて軽やかにボールを避ける少女の動き。
「美しいなぁ」と、ぼんやり眺めている場合じゃない。
2セット目の終了間近、また、試合の流れが止まる。
全権委任されたMくんが、主審に向かい、相手チームを指さして抗議している。
距離の離れたギャラリーからは、その発言の内容までは聞こえてこないが、相手チームから は、親もでてきて試合は完全に中断してしまった。
Mくんの周りに、チームの子ども達が寄り添い、主審に詰め寄っている。
しばし、言い合いが続き、最後に主審がMくんたちにぷいぷいと手を振って、試合終了の笛を 吹いた。
「主審は相手チームの言うことばかりを聞いて、僕らの話を聞こうとしない。」
準優勝の賞状を持って帰ってきた子ども達は、憤懣やるかたない様子だった。
事の顛末はよく分からないが、主審の最後の仕草には、相手チームの抗議に負け、子ども達 の主張を封じた観があった。
「あんないい加減な審判で、子ども達を傷つけるのは許せない。」
「言ったもの勝ちを通すなんて!!」
引率の親たちも、怒り爆発。
後味の悪い記念撮影となった。
「『正しい』から『強い』とは限らない。」
「ルールを破っても『言ったもの勝ち』」
そんな処世術を子供らに学ばせるのは苦しい。
「何で、うちの地区のお母ちゃん達は抗議にでてきてくれへんかったんや」
と、なじられるのも辛い。
無心にボールを追う子供らの姿は、あんなにもしなやかで美しかった。
「大人の世の中って、結局こんな物よ。」
そんな愚かな諦念で、子ども達の怒りを静めざるを得ないのは、心苦しかった。
「ねえねえ、抗議してるときのMくん、むちゃくちゃかっこよかったね。」
うちに帰ってもまだ不満を口にするアユコに、ちょっとふざけて言ってみた。
「ドッジボールもうまいし、男気もあるし、女の子に人気あるんだろうね。ねえねえ、アユコ、ああ いうタイプの子、好き?」
「かっこいいけどタイプじゃない。」
はんはん、君も王子様のようなヒーロータイプは苦手か。
オトコの好みも、似てきたねぇ。
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