月の輪通信 日々の想い
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アユコが古カレンダーの裏に線を引いて、家族6人分の予定表をこしらえてくれた。
夏休み、押し寄せる過密スケジュールに、いつも使っている書き込み式カレンダーにみんなの 予定が書ききれなくなり、一人分づつの欄を区切ったアユコ手製のカレンダーを導入した。秋 になり、そろそろ、カレンダーにも余裕が出来るかと思っていたが、秋祭りだの3カ所での展示 会だの遠足だの、まだまだ怒濤の日々が続きそうだ。
同じ日に家族の予定が二つも三つも重なったり、朝から晩まで主婦不在の日が続いたり・・・。
うわぁー、なんとかしてくれーと叫びそうになる。
久しぶりに、アユコが「学校、なんか行きたくないなぁ・・・」ともらした。
運動会まで、応援団やら「御神楽」の稽古やらで、あっぷあっぷの多忙な生活を乗り切ったア ユコ。
運動会が終わって少しお荷物が軽くなったかと思っていたが、まだまだ、秋祭りの踊りやお囃 子の稽古などのプレッシャーは残っているらしい。おまけにクラスの新聞委員だとか体育委員 だとか、あらたな役職も抱え込んで、大忙しなのだそうだ。
「クラスの新聞、編集長になった男の子が全然やってこないから、私、自分でやることにした。」 と、自宅のパソコンに向かっていたりする。
誰もやりたがらない仕事とか、誰かがやり残した仕事など、「もう!しょうがないなぁ。」と拾って きては文句タラタラ言いながら片づけてしまう。
ああ、可哀想な長女気質。
だれかさんにそっくりだぁ。
「あたし、一人でやったのに、できあがったら編集長はケロッとした顔してた。」
アユコがぶつぶつ文句を言う。
「はあはあ、そういう子はきっと一生けろっとして生きていけるんだよ。そんでもって、アユコは きっと一生、ぶうぶう文句言いながら、誰かのやり残したことを着々と片づけていく人生を送る んだから。
いちいち引っかかってたら、くたびれるよ。
アユコはなんだってうまくやれるんだから、へこまない、へこまない。」
アユコの愚痴を慰めながら、そうだな、ホントにそうだなと、我が身を振り返る。
あれもやらなきゃ、これも私がやらなけりゃと、いっぱい荷物を抱え込んで溺れそうになってい る漂流者。
それは、アユコだけじゃないんだよ。
がんばってるね、私。
「あー、2日でいいから、無人島に行きたい!」
アユコと二人、どちらからともなく、ため息が漏れた。
やらなければならないこととか、任されている仕事とか、ぜーんぶ忘れて、ぼーっと一日を過ご してみたい。
そういえば、最近、一日中庭仕事をしたり、近所の植物園でピクニックをしたり、だらだら寝そ べって読書三昧したりしてないなぁ。
「あー、いいなぁ。無人島なぁ・・・。」
「・・・・でも、帰ってきたら、留守中の二日分の仕事がどどっと残ってるのはやだな。」
「うう、それはつらい。」
やっぱり、今日も一日、こつこつ頑張るしかないか・・・。
「アユコ、忙しいのが片付いたら、無人島、いこうな。」
忙しさに負けそうになってるアユコと私に、「無人島」が合い言葉になった。
あり得ない妄想なのに、ふっと肩の力が抜けて楽になれる。アタシ一人が頑張らなくても、世界 はきっと回っていくよ。
うふふと笑って、切り抜けていこう。
親と子ではなくて、「無人島」を共有する同志としての会話が出来るようになったアユコ。
まだまだ幼い泣き虫の女の子だけれど、私のすぐそばに心強い愚痴友達が育ちつつあること に気がついた。
娘を授かってて良かった。
今日も頑張ろう。
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