月の輪通信 日々の想い
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2003年10月08日(水) 荷造り

近鉄(上本町)での展示会の搬入準備で、朝から荷造りに追われる。

義兄の作った作品リストに従って、在庫の中から、出品作品を揃え、番号シールを貼り替えて
二重三重の梱包を掛ける。

新作の仕上がりをチェックし、底面の「めあと」の処理や金箔張りを終え、寸法を採る。

段ボール箱に梱包を終えた作品は配送業者には頼まず、自家用のバンや業者さんの車で、
直接会場まで持ち込む事になる。

各地で行われる展示会の折には、義兄や主人が作品を満載したバンを夜通し運転して、搬入
日に間に合うように運んでいくのだ。



「○日搬入」の予定が決まると、義兄の出品リストが出るのを待ちかねるようにして、教室に山
のような作品を拡げて荷造りを始める。

梱包材の散乱した教室で、荷造りが大詰めを迎える頃、階下の窯場では出品予定の大作が
まだ窯の炎の中と言うこともある。搬入日の自動車便に間に合わなかった作品は、当日、手持
ちで会場に運ぶ事もある。

搬入前の慌ただしさは、どこか台風に備える準備やら、夏休み最終日の宿題騒ぎにも似て、
心躍るイベントの匂いがする。



梱包材で包まれた作品をしっかりと詰めこんだ段ボール箱には、最後にビニールの紐を掛け
る。大きな箱なので、持ちやすいように、しっかり引き絞って十字に紐を掛けるのだが、私がや
ると、どうもどこかで要らぬゆるみが出て、ぐずぐず不格好に仕上がる。

運搬の手がかり用の紐かけなので、別に見た目の美しさを求められるわけでもないし、私の
「ぐずぐず結び」でも一向に構わないのだけれど、なんとなく苦心の梱包の最後に気の抜けた
「ぐずぐず結び」でしめるのは気が引ける。

近頃では、なんとなく紐かけ作業は母や従業員の人たちに譲って別の作業に逃げこむことにし
ている。



今日、「鶴食籠」と「亀食籠」の入った段ボール箱を開けた。

この二つの作品はいつもうちの展示会ではメインの場所に鎮座する「格別」の2点。

梱包や運搬にもことさらに気を使う。

前回の展示会のあと、おそらくは会場側のスタッフの方が梱包して下さったのだろう、「鶴亀注
意!」と注意書きしたいつもの段ボール箱に実に丁寧な紐かけがしてあった。

「井」に字型に2重に紐を回して、その交差する部分ごとにきっちりと結び目がこしらえてある。

その紐を切らずに長いままで梱包を解こうとして、ひとしきりイライラと格闘する羽目になった。



一昔前、荷物を発送することを「小包を送る」と称していた頃には、こんなきっちりした紐掛けが
いろんな所で見られたものだった。

いま、「宅配便で送る」ことが多くなった荷物には、ガムテープや固いビニル製の結策テープが
使われるようになり、「紐を掛ける」作業はあまり見られなくなった。

そういえば、古ストッキングや紙紐で十字にぎゅっと縛り上げていた廃品回収の古新聞も、近
頃ではナイロンの袋や紙の袋に詰め込んで出すことが増えた。



「結ぶ」

私たちの日常生活の中で、「簡単便利」の名の下に、遠ざかってしまった当たり前の所作。

私自身は、普段の生活の中で、まだまだ「紐を掛ける」という作業にも親しんでいる方だとは思
うが、それでも「鶴亀注意」の段ボールに掛けられた荷造り紐の手慣れた結ぶ目には、はっと
驚かされるものがあった。

長い間、商品の梱包や発送のお仕事に従事してこられた方の年季の入った手が、丁寧にこし
らえた結び目の一つ一つ。

展示会の主役の場所に飾られていた二つの食籠を、格別の注意を払って梱包して下さった
「結び手」の美しい想いが知らされるような梱包の技でもあった。



搬入前の慌ただしさの中で、ついつい事務的に、包み、詰め込み、梱包する。

その一つ一つの作業にも、窯から生まれ出た作品を、大事に安全に送り届けたいという、基本
的な真摯な想いが必要なのだと、「仕事人」の基本を改めて教えられたような気がした。




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