月の輪通信 日々の想い
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2003年10月15日(水) 怒濤の果て

玄関の脇に植えてある石蕗が黄色いつぼみをぐいっと持ち上げて、開花の日を待っているのに気がついた。

毎日の出入りで必ず目につく場所なのに、そして、例年なら、小さなつぼみが株元に少し顔を出したばかりの頃から、毎日のようにチェックして開花を待つ石蕗なのに、今年はここまで大きくなるまでちっとも気付かなかった。
振り向けば、金木犀の時期も終わり、不如帰や秋明菊が、知らぬ間に秋の風に揺れている。

アプコの運動会、村の秋祭り、剣道の試合、オニイの中間試験、そして二件連続の展示会の準備・・・。
怒濤のように押し寄せる仕事や子ども達の行事。
毎日毎日、分刻みに走り回っていた。
パタパタと主婦不在の日々が続き、子ども達と父さんの奮闘で、かろうじて最小限の家事だけで切り抜けた我が家は、気がつけばすっかり秋の彩りを身に着けていたのだった。



アプコの運動会。
ニコニコと楽しそうに演技に参加しているアプコは、うちでの甘えん坊ぶりとはうって替わって、幼稚園児らしいしっかりした顔つきになった。

秋祭り。
長い間、一生懸命練習してきた御神楽や南中ソーラン、お囃子など、次々に披露して大忙しのアユコ。
ゲンは二日連続で、子ども御輿に参加した。

子供会の仕事で連日家を空ける母に替わって、子ども達が食事の支度や洗濯などをオニイが先頭に立って分担してやってくれた。

そして今日、不眠不休の準備をおえ、父さんが東京での展示会の搬入に出発した。



家族がそれぞれに自分が必要とされている場所で、自分に期待されている事を果たす。
自分に出来ること、誰かにしてあげたいことを、自分で考えて行動する。
そんなことが、ようやく子ども達の中にも根付いて、多忙な父や母の助けになってくれるようになった。

「4人の子持ちは大変だろうけど、子ども達が大きくなったらきっと楽させてもらえるよ。」
おんぶに抱っこの幼児を引き連れてずるずると手こずっていた頃、よく言われたものだけれど、そろそろその時期が来たのだろうか。



昨夜、久しぶりに落ち着いて台所に立ち、肉じゃがを煮た。
「皮、むこうか。」
と申し出てくれたアユコを断って、ゆっくりとジャガイモの皮をむく。
ふんわりと広がるお醤油の匂いに、
「いいにおい!」
とお腹をすかせたアプコが寄ってくる。
「ゲン、宿題すんだの?」
「オニイ、、テストどうだった?」
夕餉の前のあわただしい主婦の時間。
かわるがわるに、子ども達が寄ってきてはなんだかんだとしゃべっていく。
毎日毎日当たり前に繰り返していた家事の一コマが、再び、家族の暖かな時間を運んでくる。
ほんの数日台所を離れていただけなのに、いつもの家事が新鮮で愛おしい。



「おかあさん、もう無人島についた?」
お祭りの大役を終え、母より一足先に「無人島」にたどり着いたアユコが、気遣ってくれた。
「うん、そろそろね・・・」
夜になると、急に冷え込んで、暖かな子ども達の肌をぎゅっと抱きしめたくなる。
どんなに忙しくても、イライラしても、母の行きたい所は無人島じゃないよ。
父さんがいて、子ども達がいて、暖かい肉じゃがの匂いのするお台所。
やっぱりここが私の居場所なのだ。

怒濤の果てにたどり着いたのは、やっぱりここなのだった。


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