月の輪通信 日々の想い
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気持ちのいい秋空の朝。
アプコとバス停まで歩く。坂道にあんなに散らばっていたドングリ達もここ数日の雨風で路肩に 掃き寄せられ、変わりに赤く色づいた柿や桜の木の葉が舞い始めた。
アプコは中でも特別目についた木の葉を何枚も拾っては、私のポケットにコレクションしていく。
「今度はこの葉っぱをしっぽー焼きにしてよ。」
以前に何度か、七宝焼の色見本として柿の葉をひろって教室に持っていったことを覚えている のだな。
自然が作り出した微妙な色彩の重なりを、絵画とか写真とか、何かの形に残しておきたいとい う気持ちはこんな幼い子どもにもちゃんと芽生えているようで、面白い。
今日もたくさん落ち葉を拾った。
「オカアサン、じぶんの影、踏める?」
いきなりアプコが、言う。
「アタシ踏めるよ。」
歩きながら大きな一歩を踏み出して、自分の影のお腹の部分を踏む。
「オカアサン、踏める?」
「さあ、どうかな」
私も大きく一歩踏み出そうとして考えた。
「なぁんだ、簡単じゃん。」
私は足をちょっと交差して、右足で左足の影を踏んだ。
「あ、ずる〜い!」
アプコがぷっとふくれる。
「ちゃんとお腹のトコ、踏んでよ。」
「う〜ん、おかあさんの影はアプコのより長いからむずかしいなぁ。座ってみようか。」
しゃがんでみると影は短くなるが、それでも「大きく一歩」が踏み出せないので、お腹の影は踏 めそうにない。
「わかった、アタシ、自分の頭の影、踏めそうな気がする。」
アプコは、自分も小さくしゃがんで、頭の影に向かって足を延ばす。
何度やっても、足が着地したときには影はさらに前方へ逃げてしまって、捕らえることが出来な い。
ついには蛙跳びのようにピョンピョン跳ねていく事になってしまって、笑ってしまう。
「踏めないねぇ・・・」
「むずかしいねぇ・・・」
自分の影を踏むのは諦めて、私の影を踏むことにしたアプコ。
二つの影が重なり合いながら、坂道をどんどん下って行く。
バス停に近づいて、すっかり影踏みのことを忘れていたら、アプコが急に声を上げた。
「あ、わかった!」
そして、近所のブロック塀にいきなり飛び蹴り。
「ほら踏めた!」
ブロック塀に小さな足跡。
確かに、アプコの頭の影の上。
「わぁ。すごいこと思いついたね。」
得意そうなアプコの顔。
なんだかとっても満足げ。
賢くなったなぁ・・・。
ふわふわと捉えどころのない影を踏む。
しゃがんでみたり、跳ねてみたり・・・。
我が身の影でありながら、
追えば離れる。
離れればついてくる。
忘れた頃にブロック塀をキック!
・・・・これって、人生の極意かもしれない。
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