月の輪通信 日々の想い
目次過去未来


2003年11月08日(土) 縄をなう

「縄をなう」の「なう」は「綯う」という字を使うそうだ。

漢字変換機能というヤツは実に賢い。

ひとつ、リコウになった。



小学校の休日参観&PTA行事。

アプコを連れて出かける。

今年は小学生が二人なので、授業も行事の方も結構余裕を持って見ることが出来て、面白か
った。



・・・で、アユコの授業は、自分たちで育てて収穫を終えた稲の藁で、縄をなうという。

田植えの頃から地域の長老格のおじいさん達が子ども達の技術指導に来て下さっていて、今
日もそのおじいさん達が先生役。

日に焼けた作業着に、しっかり親指の分かれた足袋のような靴下。

地域のあちこちで普通に見かける農作業の服装が、指導者役として小学生達の中に混じる
と、いかにも風雪の耐えた農耕の民という感じで威厳を含んで見えるのは面白い。



実は私自身、「縄をなう」作業を実際に見るのは初めてなのだけれど、さすがにプロの技はす
ごい。

少量の藁束をとり、大まかに三つに分けて、その一本一本に撚りをかけながらひねり合わせる
ように、縄にしていく。

縄のはじっこを器用に足袋型靴下に引っかけて、節くれ立った大きな手の平をすりあわせる
と、その手元からしっかりと組み上がった藁縄が滑り出てくる。

子ども達も、一本に二人がかりで縄作りに挑戦するのだけれど、3分の1の一束によりをかけ
ることすらおぼつかなくて、縄どころか「ねじった藁束」のまま、にっちもさっちも行かなくなってし
まう子もいる。

子ども達に混じって、一緒に作業をしている先生達ですら、「とりあえず縄」の状態に仕上げる
のがようやくだ。

そばで見ていると子ども達の悪戦苦闘ぶりがもどかしくて、「ちょっとやらせて・・・」と手を出して
みたくもなるのだけれど、私がやってみたところでさほどうまく出来そうにもない。

その間にも、指導役のおじいさんたちは黙々と縄をない、次々に仕上げていく。

「うまくできない・・・」と指導を受けに来た子ども達も、鮮やかな手つきで藁を扱うおじいさんの
手元を食い入るように見つめるばかり。

「すごいなぁ」とプロの技に魅せられているのがよく判る。



一昔前ならば、藁束から縄をなう作業は農家の庭先ではごくごく普通に行われた事なのだろ
う。

もしかしたら、子ども達ですら、親たちの農作業の合間に習い覚えて、習熟していた作業なの
かもしれない。

老練の農夫達のごつい手には、当たり前の作業として身に付いた縄綯いの技術がある。

ホームセンターや百均ショップで丈夫なビニール紐やロープを手軽に求められる今、縄綯いの
技術は注連縄作りか子ども達の農業体験ぐらいにしか出番はなくなってしまったのかもしれな
い。

それでも、藁縄を使った事のない子ども達すら、感嘆しながら見入ってしまう日常の技の見事
さ。

育てた稲の藁の一筋まで、生活の中に生かして使う長老達の深い知恵を魅せていただいた気
がする。



ところで、今日、指導に来られたおじいさん達のうちの一人は、先日の秋祭りで先導役をつと
めた「天狗さん」だった。

重い衣装と面を着け、高下駄を履いて数キロの巡行を、二日に渡って歩き通す。

見るからにご高齢なのに、恐ろしい体力の持ち主だ。

さすがに「天狗さん」役は今年で引退なさるという噂だけれど、黙々と縄をなうその正確な技術
は、長く農作業をコツコツとこなしてきた農耕の民の頑固なねばり強さを感じることが出来る。



・・・せめて皆に説明するときくらいは、ちゃんと入れ歯を入れてしゃべって欲しいというのが、参
観の母達のささやかな冗談のタネにはなったのだけれど・・・。






月の輪 |MAILHomePage

My追加