ボクハウソツキ  -偽りとテレコミの日々-
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2002年04月26日(金) 火の国(4)

シャワーを浴びて出てくると、エリは浴衣に着替えて
狭いシングルベッドに腰掛けていた。
「遅くなっちゃったね、今日は疲れた?」
肩に手を掛けるとびくっという反応の後に
彼女の体からは小刻みな震えが伝わってきた。

高校卒業後、都内の専門学校に通い
1年ほど働いた後、大きな病気をした彼女は
手術をして地元に戻った。
その間に付き合った男が初めての相手だったわけだが
若くて焦っていたのか、単に雑なだけなのか
自分本位の行為をするやつだったらしく
経験のない彼女にとって、
抱かれることは苦痛でしかなかった。

そしてすぐに手術をしたため片手にも満たない経験数
初体験のトラウマと手術跡のひけめで
最後まで行くのを恐れるあまり、恋愛をも遠ざけてしまい
臆病な彼女はそれから10年近くの時間を
特別な人を作らずに過ごしてきた。

んなばかな!?

もちろんそう思ったさ。
でもその夜の経験は、事実を裏付けるに充分だった

照れ隠しによく喋る口をキスでふさぐと
一瞬の抵抗の後、震える体の力を抜いて身を委ねてくる。

「こんなトシで恥ずかしいんだけどね、ホントに恐いの」
「シバのことはスキよ、でもあなたはきっと傷跡を見てイヤになるわ」

そんな君の呪縛を解くために
ボクはここにいて、君はここまで来たんだよ。
浴衣をはだけるとスリムな体は雪のように白い肌だ
小ぶりだが形のきれいなバストの間に薄く細い線が走っている
が、それは言われてよく見なければ絶対に気付かない程度で
こんなもののために彼女の人生の少なくない割合が
削れてしまったのが残念に思えてしょうがない。

「きれいな肌だ。キズなんかほとんど見えないよ」
「すごく魅力的なからだをしてるよ」

あらん限りのホメ言葉と優しい扱いに
彼女は涙さえ浮かべて小柄なからだを開いていった。

たくさんキスをして、ぎゅっと抱きしめる
途中、痛がる表情に萎えかけながらも
じっくりと時間をかけて慎重に目的を遂げる。
たぶん、今までの人生で最高に気を使った抱き方だったろう
なにせ人ひとりの今後の人生まで左右しかねないのだから。
最後にはエリも
「少し気持ちよくなってきた」
と言ってくれたのが嬉しかった。ホントに嬉しかったんだ。
嬉しくて涙さえ滲んできた。泣きながら抱き合ったのは
初めての経験だった。僕達は二人で泣いていた。

終わった後はお互いに照れながらも充実感でいっぱい
愛おしくなった小柄な女の子をきつく抱き締めながら
(こんな思いになっていいのだろうか?)
と、いいしれない焦燥感も感じていた。

安らかな寝息を左腕に感じながら眠りに落ちた時には
外はもう日曜の朝が近付いていた。


夕べ 彼女は傷ついた小鳥のようにここへ訪れた
そして 同じ夜明けを迎えたのさ。まるで昔のように


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