世界お遍路 千夜一夜旅日記

2002年03月08日(金) 第73夜 グリーンランド 町ふらぶら

8/4<金  晴れのち曇り>  ホテルアングサリマリク3泊め

予定
   町中ぶらぶらウオッチング

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 朝食のテーブルにコーヒ−カップを持ったギンさんがやってきた。
「あなた、昨日、行かなくてよかった」
「どうして」
「だって、ナマで食べるのよ、うちの夫も食べられなかった・・」
 聞くと、ガイド氏は港のボートのそばに沈んでいたのと同じくらい大きなアザラシを持ってくると床に転がした。そして腹から切り裂き、内蔵とナマ肉をお客であるビョアーさんとギンさんにすすめたのだという。
「彼らは、お客の前で2週間ばかり前にとって海に沈めておいた一番おいしそうなアザラシの腹を、見ている前で割いてすすめるのがいちばんの歓迎でと考えているの」
「2週間前?」
「そのころが肉が軟らかくなって一番おいしいんだって。あなた来なくてよかったわ、私は気持ち悪くなったもの」
 ギンさんは胸の辺りを押さえて、眉をひそめる。
「そうね・・」

 新鮮な生肉がエネルギー補給のために一番いいとは知っていた。
厳しい自然の中でのサバイバルに欠かせない食べ方だ。
確かあの植村直巳様もそうして食べていたはずだ。
しかしすでにほとんど西欧化してしまったと見える彼らが「生肉食い」をするのは意外感がある。
たとえお客歓待の意味があるにしても・・もしかして刺身と同じく、ナマが「アザラシ」をもっともうまく食べる方法なのかな。
伝統食といってもおいしくなかったら消えて行くはずだから。
 それにしても、いくら好奇心が強い私でも突然前にナマのアザラシがでてきたら、やっぱり引いてしまうだろう。
ギンさんの気持ちはわかる
。しかしその場にいたかった気もした。
ギンさん夫婦とドイツ人家族は、またまたボートで近くの氷山ツアーだという。
ドイツ人のお嬢さんに「いっしょに行こう」と誘われたが「私は今日は町の中を歩くから」と断った。  

最初は博物館。
町の中心にある。
ホテルの客室のテーブルにあったマップを持つが、小さい町だ。
迷うことはない。
急な坂道を降りていくと、イタリア人夫婦に会った。
「おはようございます」
「私たちは今日帰るんだ、楽しかった、ありがとう」
 重厚で、パイプでも持たせたら似合いそうなだんなが寄ってきて手を出す。
「こちらこそ。ありがとうございました」
 手を握り返す。大きくて暖かい。
そばにいた目の周囲にそばかすが散っている内気そうな奥さんも首を傾げてほほえみながら手を出す。
握り返した。こういうのっていい。袖ふれあうも他生の縁、だもんね。
 さて、着いた博物館は誰もいなかった。
「無料だが少しご喜捨を」という箱がおいてある。コインを入れて、見回す。小さい
。考えてみればめざましい芸術などあるわけがない。
「ミュージアム」があること自体が偉いぞ。
 19世紀末、デンマークの探検家ギュスタフ・ホルムがこの地区にやってきて撮った写真が展示されている。
アザラシの毛皮、なめし皮を身につけたイヌイットの姿が目を引く。
日用品、楽器、様々な骨の細工物、すべてがアザラシによってまかなわれていたことがよくわかる。
壁には今この町に住むイヌイットの画家が描いたという絵が張ってある。アフリカのアーチストの絵に似ているが、もっと暗くて野生が感じられた。
 郵便局でクジラ柄の切手を買い、公共の洗濯場とシャワーがあるランドリーをのぞいた。
といっても町中の谷沿いに作られた小屋だ。
大型の洗濯機が回り、今シャワーを終わったばかりの女性がタオルで髪を拭きながらでてきた。
数人の女たちがしゃべりながら洗濯中。合成洗剤の臭いが強い。
いいのかな・・川の水は洗剤のアワで白くなっている。

 またホテルへの坂をのぼる。途中ハンドクラフトと書いてある小さな家のドアを押してみた。
 三人の男がこっちを見る。ぎゅいーんと研磨機が回っている。彫刻刀のようなもので骨を削っている。
紙ヤスリで石を磨く。どうやらここはイヌイットアートの工房みたい。
トナカイの骨で作った悪魔みたいな顔をした15センチほどの像を一人の男が取り出して「買うか?」という動作をした。
首を振って断り、彼らの仕事を見ていていいかとこれまた仕草でつたえる。
一人が「OK」と言った。
彫刻刀で骨を削っているおじさんの指先は器用だ。
像にゴマ粒ほどの目をクイとえぐる。
石<多分ソープストーン>でクジラのしっぽを作っていたおじさんは足がよくない。
彼にとっては座ってできる石彫りはいい仕事だ。ドアが開いてタバコをくわえた小柄なおじさんが「やあ」という感じでやってきた。
彼も手にした袋から骨細工を出して仕事を始めた。
カセットから音楽が流れ、それぞれ仕事に精を出す。
粗末な窓からは日の光が射す。平和でいい時間だ。
私は30分ばかり男たちの工房を見せてもらった後、辞した。

昼食にまたクジラ肉がでた。
午後はホントに町中をうろついた。
 アップダウンのある小道に迷い込むと必ず犬がウウーと飛び出てくる。
つないであるから飛びつかれることはないのだが、子どもをかみ殺すどう猛さを聞いてしまったあとなのでびくりとする。
ときどき子犬がトコトコでてくる。子犬は危険度が少ないせいだろう、放し飼いだ。
かわいい。小さな家のもの干し、窓辺にはアザラシの皮が干してあった。
アザラシは、イヌイットの人たちにとっていまだ命をつなぐ大事な生き物なんだということがよくわかる。

 町の中は汚い。
ペットボトル、ビールの缶、お菓子の袋、何でも捨ててある。
ゴミ処理施設とシステムがないのだ。
町はずれで野焼きしている煙が終日上がっているが、間に合わないのだろう。
江戸時代にスーパーマーケットが進出して、みんなそこで買い物をするようになったはいいがゴミを片づけるのが間に合わない、または処理の知識がないと考えてみればわかりやすい。
この町に舞うゴミを見ていると「現代文明」いかに大量の廃棄物を出しているかわかる。
ゴミ収集車が機能しなくなったら、我々の生活はすぐに自分で出したゴミの山に埋もれてしまう。

銀行、郵便局、スーパーに加えて、病院、警察もあった。
生活に必要なものはとりあえず何でもそろっている。
やっぱりこうなるとイカタックのような所には住めなくなるよね。
学校は夏休みだったが「子どもセンター」のようなところが開館していた。
町はずれにある、夏はYHになるという学校の寮にも行ってみた。ロンリープラネットにはこの町の本屋さんに予約をするように書いてあったが・・・人の気配はなかった。
果たしてホントにやっているのか。謎だ。

最後にこの町を守るようにそびえ立っている岩山に登ろうと小道を歩いていたら、一人のイヌイットのおじさんが近づいてきた。
胸ポケットからトナカイの骨の像を取り出して突き出す。ン?買えっていうの?顔を見た。
オー、ハンドメイドショップにいたおじさんではないか。
にこにこして「見ろ」とつきだす。
そうか、そうか。あのとき作っていたやつができたんだ。
それで偶然通りかかった私に「できたよ」と見せてくれたという訳なんだ。
手にとって触ると磨きがかかってすべすべ。
今日できた自分の作品を懐に入れて温めているのか。いい感じ。好きだなあ。
そばには彼の奥さんらしい人が優しい笑顔で立っている。
今日一日歩いてみてイヌイットの人たちの人なつこい笑顔が印象的だった。
この夫婦の笑顔もまたいい。

最後にいいことあったなあ、とひとりごちながら山に登った。
俯瞰するアマサリクは色とりどりの家がきれい。
周囲の岩山と氷山の中であまりにもちっぽけだ。やっぱり人間は地球に「間借り」してんだよな。

夜、夕食を食べているとドイツ人ファミリーが自分たちのテーブルに来いと声をかけてきた。
お嬢さん、カトリンは「今日氷山で拾ったの、貴石だと思う」とルビーのような色をした小さな石を見せてくれた。
そして、「あなたは今日一日町を歩いてどうだった、この町をどう思う」と訊ねてくる。
「ゴミが処理されていない。
昼からスーパーのある広場でビールを飲んでいる男たちを見た、働く場所がないようなんだけど」といったら、彼女も「私もそう思う」と同感した。
それから話が弾んだ。そして、彼らがはじめから私にとても好意を見せてくれたわけも判明した。
 まずご両親は三菱自動車ドイツ工場勤務、カトリンはオートバイが趣味で「カワサキ」を持っている、仕事もトヨタ勤務。
弟くんはテレビでタケシショウを見るのが好きで「タケシファン」だったというわけ。
それぞれ、日本に深いつながりと関心があったのだ。こうなると背中に「日本」を背負っているみたいで重たいが、仕方ないか。

 弟クンがタケシショウを見るかと目を輝かせて聞くので「タケシは毎日TVに出ている。
タケシの番組はたくさんあるからどれのことかわからない」といったら「頭におもしろいかぶりものをしている」という答え。だいぶ前のやつみたいだ。「タケシショウ」の翌日は学校で番組の話で盛り上がるくらい人気らしい。
ノルウェーの田舎でTVをつけたらポケモンをやっていた。
今ポケモンはヨーロッパを席巻している。
もしかして「タケシ」もヨーロッパでポケモン的人気になるのかしらん。

 日本のことをいろいろと聞くのでは今経済状況がよくないし、教育は「若者の不登校、引きこもり」という大きな問題を抱えていると話したらカトリンが「それはドイツにもある」といった。
「便利になって、コンピュータで何でも処理できるようになってきているから人とうまく付き合えない子供が増えている」
 というのがカトリンの意見。同感だ。
 こうしてグリーンランド最後の夜は更けた。
 1時間半あまり、食卓での時間は私の片言英語でこんなに分かり合えていいのかと思うくらい中味が濃かった。


>>>>>>3月8日(金 晴れ)本日のできごと>>>>>>>>>>

朝7時半起き。
高松に行く用意いろいろ。
アッというもに時間が過ぎた。
12時出る。
あんなに悩んでいたのに、腹が据わった感じ、やるよん。(^o^)

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