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2002年01月31日(木) 竹内浩三のことば ●日本が見えない(竹内浩三)・紙屋町さくらホテル(井上ひさし)

 このところ新聞などで話題になっている竹内浩三作品集を入手。

 八千八百円という値段にいったんは二の足を踏んだが、結論、思い切って買ってよかった。


 彼は23歳の時、フィリピンで戦死。
 
 こんなにもことばに溢れた青春を、わたしは知らない。

 ノートに手帖に、原稿用紙に、本の余白に、饅頭の包み紙に、ほとばしるように書き付けられたことばの全てが鮮烈。

 綴られた文字に書き直しはほとんどない。推敲の跡が見えない。彼の中にことばが生まれると同時に、文字となっている。文字は彼の心の写しになっている。

 教室で、青空の下で、汚れた下宿で、兵舎の寝床で、書き続けられたことばは、美しかったり、痛ましかったり、青春のすべてが映っている。

 わたしは愕然として読み進めながら、このようなことばの泉を枯らしてしまったものを改めて恨んだ。自分の家族を失ったみたいに悔しかった。

 詩、創作、日記、漫画、それは膨大な量なので、まだ3分の1しか読んでいないが、魂を抜かれたみたいに1日呆けてしまった。


***

 下に、天声人語にその一部が紹介された詩を写そう。色んなところでこの詩は紹介されているから、全文写したっていいだろう。


「骨のうたう」

戦死やあわれ
兵隊の死ぬるや あわれ
遠い他国で ひょんと死ぬるや
だまって だれもいないところで
ひょんと死ぬるや
ふるさとの風や
こいびとの眼や
ひょんと消ゆるや
国のため
大君のため
死んでしまうや
その心や

白い箱にて 故国をながめる
音もなく なんにもなく
帰っては きましたけれど
故国の人のよそよそしさや
自分の事務や女のみだしなみが大切で
骨は骨 骨を愛する人もなし
骨は骨として 勲章をもらい
高く崇められ ほまれは高し
なれど 骨は聞きたかった
絶大な愛情のひびきをききたかった
がらがらどんどんと事務と常識が流れ
故国は発展にいそがしかった
女は 化粧にいそがしかった

ああ 戦死やあわれ
兵隊の死ぬるや あわれ
こらえきれないさびしさや
国のため
大君のため
死んでしまうや
その心や

***

 ひとつ残念なのは、やはり、この本の値段。
 若い人にこそ是非読んで欲しいのに、八千八百円は普通一冊の本に支払わない。若い時は、我々中年と違う意味で物入りなのだ。
 紙質を落としてでも、もう少し廉価にならなかったのかしら。
 願わくは、日本中の図書館すべてに置かれんことを。


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