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通常の読書に加えて、ちょっとした気分転換に本を読むということがある。 すでに読んだ本を書棚から取りだして、通読するのではなく、好きなところを読んだり触りだけ読んだり、クライマックスだけ読んだり、といった具合に。
今日手にとったのは、「手紙、栞を添えて」という、何年か前に朝日新聞の日曜読書欄に連載された、辻邦生さんと水村美苗さんの往復書簡をまとめたものだ。連載当時から愛読し、本にまとまったらすぐに買い、一気読みした記憶がある。 文学に関する書簡の美しさもさることながら、わたしを魅きつけたのは、水村さんの少女時代の文学体験。あまりにもわたしに似ているのだ(わたしが似ている、が、正しい)。愛している作品がかなり重なっていることもさることながら、愛し方がとにかく酷似している。 共通点は、なんなのだろう? 自意識の強い夢見がちな文学少女だったということか。それとも、読後感を反芻することで自分で物語をふくらませてしまうタイプということか?
改めて、幾つかの書簡を読みながら、水村さんの方が、ずっと自分の感覚を信じ、大事にしてきたのだろうなあ、などと考えていた。
自分をきちんと(真っ当に、と言い替えてもよい)大事にすることを知っている人と、知らない人の差は大きい。
そして。わたし自身はまったく記憶にないのだが、この「手紙、栞を添えて」という本の中には、たくさんの紅葉の栞がはさまっていた。凍える季節に、秋の香りが零れおちた。 いつ、どこでいれたのやら? 形の美しい、見事に赤いまま押し葉にされた紅葉たちに、ちょっとした感動を覚えた。函入りの本なので、引っ越しのごたごたでもこぼれずにすんだのだ。 自分自身に感動させられる、というのも、なかなか悪くない。 水村さんとわたしの共通の愛読書、「愛の妖精」「カラマゾフの兄弟」をベッドサイドに置いた。「カラマゾフ」の方は、いったい幾つ夜を過ごせば読み終わるやら。もちろん、わたしの大好きな「少年たちの群れ」の章を読むだけでも楽しいのだが。そして、米川正夫氏の、なつかしいロシア翻訳文体に、ちょっと触れるだけでも楽しいのだが。
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