Journal
INDEX|back|next
2002年02月18日(月) |
街を歩けば思い出に当たる。 |
昨日、三百人劇場で芝居を観た。劇団昴の持ち小屋なのだが、わたしは断然映画館として恩恵を受けている。
関西から東京に出てきて、田舎ではとても見ることのできない面白い映画をいつも何処かでやっていることが嬉しくって、名画座にはさんざん通った。大学が早稲田だったから、休講だったら早稲田松竹に行けるし、その頃はまだ高田馬場パール座なんてのがあって、ここも当時はいい映画をかけていた。じゅうたん敷きの部屋にべた座りして見るACTは、いつ行ってもブニュエルを見れるところだった。東西線に乗れば、飯田橋ギンレイホール、逆行すれば三鷹オスカー。国鉄(あの頃はまだ、確か・・・)に乗って、新宿、渋谷、目黒、五反田、私鉄に乗って、下高井戸、三軒茶屋、そうだ、足を伸ばして大井町にもよく行ったし、銀座なら行きつけは並木座。銀座に出る時は、着ていく洋服とか考えて、ちょっと緊張したり、当時から嫌いな街だった池袋には、文芸座が他の街にあればいいのに、とか失礼なことを思って通っていた。
で。三百人劇場は、なんといって、わたしが大学1年の時に組まれた特集「ソビエト映画の全貌」を見たのが大きい。 「戦艦ポチョムキン」を始めて見、タルコフスキーと運命の出会いを果たし。メジャーなところでは「カラマゾフの兄弟」「ワーニャ伯父さん」「イワン雷帝」あたりから、今は題名も思い出せないマイナーなものまで。大学でロシア語を学び始めたばかりだったし、高校の頃からドストエフスキー、ゴーゴリ、チェーホフをことばだけで愛してきたわたしには、もう宝物のような企画だった。
以来、三百人劇場に足を運ぶたび、大学1年の頃の、自分の初々しい感じが必ず蘇る。上にあげた映画館だってそう。どの映画館にも、「出会えてよかった」映画があり、その時の自分のこと、一緒に見た人のこと、不思議なほど鮮やかに蘇る(もちろん場所によっては「なんじゃい、この映画は?」で印象が残っていることもある)。 そんな感覚は、自分が舞台の仕事で大忙しの生活になり、見る目が商売がらみになり、映画館も画一的にキレイになり、レンタルビデオが普及し、で、どうも喪われてしまったような気がする。 内容だけじゃなくって、場所と時間にくっいた映画の記憶。
ああ、夜中に独りで、妙に甘酸っぱい気持ちになってしまった。どんどんいろんなことを思いだしてしまう。いかん。
18歳で東京に出てきて独り暮らしをはじめ、すでに実家で過ごした年月より長くこの街に暮らしている。映画館だけじゃなく、もう、街を歩けば、そこここにメモリアルポイントが! いいことあり、悪いことあり、こっちの都合はおかまいなしに、「ほらほら、ここは、ほら!」と語りかけてくる街角のあれこれ。 歳をとるってことは、思い出の堆積と、なんとか折り合いつけてうまくやっていくって感じかもしれないな。
※HPに新しいページを久しぶりに作りました。「喪われた図書館」と「竹内浩三の12ヶ月」をアップ。興味のある方は下のリンクからEtceteraというページを訪ねてみてください。
|