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2002年03月27日(水) 夫婦って…… ●秘事(河野多恵子)

 帰京して、日記を書くのも久しぶり。

 「秘事」を再読した。最初に読んだのは1年前くらいだったろうか? 時間がたつと印象がわずかに違う。あの時は、自分の恋情を支えに読んだ。今回思うのは、夫婦という小さな社会、夫婦という他人が作る新しい血縁のこと。やはり、両親と過ごす時間の中で読んだからか。

 主人公夫婦の次男が、自分の結婚式の日に両親に告げる。
「おふたりは僕の最も大好きなご夫婦なんですよ」

 わたしも同じ言葉を自分の両親に告げることができるだろう。両親はわたしの理想とする夫婦だ。理想を掲げすぎると、実現に障りがあるのか、自身はなかなか結婚できない。

 「秘事」を読むと、結婚をしないことが人生における大きな損失のように思えてしまう。
 生きるということや人生の時間を満たすことの、ささやかにして十分な美しさを描くのに、たまたま夫婦という枠を使っているだけのこと。そう思っても、なお「夫婦」というものに魅かれてしまうのは、ここに描かれる夫婦があまりにわたしの理想に近いからなのかしら。

 それにしても、時間軸があちこちに動き、視点もあの人にこの人に移るのに、読み終えたとき、読者であるわたしはしっかりと彼らの人生を把握している。その緻密な描写力に、改めて驚く。


 帰省前に初桜を見たと思ったら、もう東京では満開を過ぎてしまった。ここ2日の雨で、散歩道は濡れた花びらに敷き詰められた。
 悲しくも美しい風情があった。


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