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2002年07月06日(土) センセイと蕎麦屋で。 ●ルネ・マグリット展

 明日から東京を離れてしまうので、初日のルネ・マグリット展へ。予想通りの大変な人出。絵を見る環境ではなかったが、辛抱強く眺めて歩く。
 複製に慣れ親しんだ絵の現物に出会う時の感動は、それでもいつもの如くある。キャンバス自体の凹凸が生み出すささやかな影やら、筆の走りの跡。べったりとした色が、たくさんの微妙な色の重ね合わせであることを知ることもできるし、何より画家の息づかいを感じることができる。20日後帰京したら、時間を見つけてまだ出向きたいが、はて。

 昨年の今頃仕事をご一緒し、わたしの日記に登場した愛すべき翻訳家。実はドイツ文学者にして翻訳家、エッセイストでもある池内紀氏である。
 劇場で久しぶりにお会いし、思いがかなって、池内先生とデートをすることになった。
 先生は、ゆったりと、おおらかに、茶目っ気たっぷりに、あれこれよそ見したり寄り道を楽しんだりしながら、人生を散歩しているような人。いつだって忙しさにかまけてしまうわたしの、憧れの人なのである。

 場所は先生のエッセイにも登場する頑固な亭主のお蕎麦屋さん。そこで日本酒を頂きましょう、という約束。これはちょっと「センセイの鞄」にさも似たりの設定ではないか。

 さて、実際は。
 蕎麦屋に入るなり、やはり池内先生を慕う地元の落語家、柳家はん治さんを発見。はん治さんも先生と一緒に酒を飲みたいのは、わたしと同じ。で、ずっと3人で飲むことに。
 湯葉だの蕎麦味噌だの酒盗だの、日本酒ならではの肴を囲んでの、ちょっとした芸術論、落語論。つい熱くなりがちなわたしとはん治さんを、真ん中に坐った池内先生が、おおいなるユーモアで包み込む。
 はん治さんは、如何にも懐かしい噺家の風貌で、すごく気持ちの熱い人。気持ちのまっすぐな人。
 年齢もそれぞれの3人のいい加減な大人が、与太を飛ばしあっているような、そんな2時間半。実に楽しかった。

 池内先生とわたしは、偶然にも同じく姫路を故郷としている。
 帰りがけ、懐かしい穏やかな播州弁で、「しんどかったらまたいつでも電話してきてください」とおっしゃってくださった。
 
 ああ、なんてもう幸せな時間たち。

 明日はざくざくと荷物をまとめ、新潟の劇場を目指す。


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