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●23日にロンドンに渡る予定になっているのだが、この世界情勢では、何があるかわからない。 ロシアでチチェンのテロ事件にでくわした時も思ったことだけれど、平時に感じる芸術の影響力は、非常時になると、実に脆い。たったこれだけのものだったのかと思うほど。
●今、上演中の舞台は、傷ついた旅芸人たちが集まって、荒唐無稽な幸福の物語を演じてみせるという、大枠を持つ。不幸なことばっかりの時代に、夢見る権利ぐらいはあるだろう、と、演じてみせるのだ。 プロローグでは五体不満足な旅芸人たちが演劇という救済を求めて集まってき、エピローグには、演じ終えてまた何処かしらへ帰っていく。 現演出では、ラストシーン、真っ白な照明の中を彼らは帰っていくのだけれど、これを、開戦したら、真っ赤な照明に変える予定になっている。
わたしは、上演中の舞台を、とっても愛しているが、その演出プランには、密かに反対している。そういう即時的なことに耐える、精神力がないからだろうか? それとも、自分の体を通過していない痛み、自分の想像力を越えた痛みを、人に提示する勇気がないからだろうか?
白が、赤になるだけのこと。それも、虚構の舞台の上で。 でも、そこにわたしの人生が確かにあるので、どうしても納得できない。
●日本での公演も、あと4日、5回限りとなった。16日までだから、ニュースで見聞きする限り、たぶん、それまでに開戦することはないだろう。でも、ロンドン公演では……。
●明日は午後からの出勤。また物語の世界にたっぷり逃避行して眠ろう。
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