Journal
INDEX|back|next
| 2003年06月18日(水) |
選んだ一本の道。 ●幸福な王子(ワイルド) |
●朝、仕事で使うスケールを入れる袋が欲しいと言うので、ミシンを出して縫製作業。その間に、A氏は朝食の支度。男三人所帯のすべての食事を面倒見ている男だから、料理が上手だ。台所を任せていたら、カルボナーラのオムレツ包みに、フランスパンとにんじんのグラッセを添えたものが出来ていた。朝からたっぷり食べる。朝からビールも飲む。お腹が空いていたわたしは、凄いスピードで平らげていく。「たくさん食べてくれるのが嬉しい」と、A氏は目を細めてわたしを見る。 料理の上手な父に、料理自慢のわたしが嫁ぐ。息子は幸せだとA氏は言う。
●小雨の降る中、亡くなった奥さんのお墓参りへ。季節柄、苔の生した墓石を二人で洗う。A氏が「この人が嫁にきてくれることになりました」と、言葉をちゃんと声にのせて報告する。わたしは黙っている。 しばし二人手をあわせた後、A氏は、「俺はどうでもいいから、とにかく君が幸せになるようにお願いしといたから」と笑った。わたしは少し泣いた。
●恋人の仕事が一段落ついていて、連絡のくる頃だった。A氏はそれを知っていて、「君が連絡するまで行かないから」と、仕事に出かけていった。わざわざ「俺を裏切っちゃいけないとか、ことさらに思うことないからね。まあ、俺は今世界一の果報者だけれど」と、ことばを添えて。
●午前3時。仕事仲間と飲んでいた恋人から「今から行く」と電話がかかってくる。彼にとって、わたしは、いつでも両手を広げて彼を待っている人なのだ。 恋人は、疲れきっていて、話をする余裕だの、わたしへの思いやりなどはいっさいない。それは決して悪いことではなく、彼がわたしと長い時間をともに経てきて、甘えてくれている証なのだ。わたしと彼は、そういう関係だった。彼も、彼のやり方で、わたしを確かに必要としているのだ。 心の余裕のない彼に、結婚の話をすることは出来なかった。今言うべきだとは、とても思えなかった。
疲れた体をマッサージしてあげて、眠りについた彼の寝顔を眺める。何時間眺めても飽きないと思ってきた、自らを癒す眠りの中の彼。彼は立派に仕事をしてきている。それを癒してあげられるわたしがいる。
この人とこのまま居続けても、幸せはある。寝顔を見ながらそう思った。物事はそう簡単に割り切れたりしない。
でも、わたしはもう選んだ。何が正しく、何が輝きに繋がるか見当もつかなくっても、選んだ道に歩を進めることしかできない。体を二つに分けて二つの道を行き、どっちが好ましい場所に行き着くか確かめるなんてことは、ありえないのだ。両方の道の景観を楽しむことなどできないのだ。わたしは、選んだ道を、歩き出さなければいけない。
人生を信じよう。何を選んでも、自分が美しい生き方を本当に望めば、行く道には花が咲くだろう。捨てた道に、別の美しい花が咲いているかもしれないことに、わたしは今、目を瞑ることが出来ると、自分を信じよう。
正直に言えば、ものすごく辛い。
●恋人とは一緒に眠らず、わたしは起きている。そして、A氏に「安心してください」とメールを送った。恋人が来ていることを正直に告げ、あなたを選んだことを正しいと思っていると伝えた。
これからどうなるかわからない。仕事のことでいっぱいの恋人の心に、少し隙間ができたら、話をしなければ。
恋や愛と呼ぶものだけに囚われていては、きっと今、行動できない。 人として、何に、誰に、どう、責任を取るかだ。そう、自分を戒める。
|