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●恋人は、午後1時半まで眠り続けた。腰が痛いと言っては、ベッドを出てフローリングの上にクロスを敷いて眠り、その堅さに疲れたと言ってはソファーに眠り。わたしは一睡もせずに、その眠りにつきあった。一緒に眠るのは、気がひけたのだった。そして、ずっと、本のページをめくり続けた。 彼は、朝ご飯のサンドイッチを頬張って、起きるなり、仕事に出かけていく。残されたわたしは、ひどく空虚で、今日はどうしてもA氏に会わなければと考える。黙ってわたしを泳がせてくれているA氏に、仕事が終わったらすぐに会いたいとメールを打つ。
●自分のだらしなさが嫌で嫌で、本を読み進めること以外、何も手につかない。晴れ間に自転車を駆って、買い物に出かける。新しいシーツを買う。
●A氏は、一刻も早く会いたいと、まだ早いのにタクシーに乗ってやってきた。デスクトップのPCしか持っていない彼は、これで君のところで仕事ができると、新しいノートPCの箱を抱えてやってきた。仕事が終わって急いで買ってきたのだと言う。機械音痴の彼のセットアップを手伝いながら、わたしは夕食にハンバーグを作る。
●ハンバーグは素晴らしい出来で、一口食べるなり、A氏は感動の極みの様子。息子にも食べさせたいと言い言い、作り方の極意など訊きながら賑やかに平らげて、わたしはおかわりの発注を受け、箸を止めて、2つめを焼く。焼けたハンバーグを空いたお皿に盛ろうと振り返ったら、下を向いて、寂しげな顔をしている。どうしたのかと聞いたら、感動してしみじみしてしまったのだと言う。打って変わって、2つめを、黙りこくって、一口一口噛みしめるように食べる彼を見ていて、わたしは自分の選ぼうとしていることが間違っていないことを確信する。
●部屋の中を、台風風が我が物顔でぐるぐると回っている。夜中に、すべての窓を開け放っている。レースカーテンが、時々わたしの肩にまとわりつく。A氏は眠っている。部屋にいながらにして、風に煽られ、でも、わたしの心は凪いでいく。
●もう、何も迷うことはなさそうだ。折をみて、恋人に話す。一緒にわたしの実家に行ったり、A氏息子と対面したり、少しずつ、先に進んでいこう。ひりひりする思いでこうして日誌に書き付けるのも、そろそろ終わりにしてもよさそうだ。非日常が、日常に、だんだんと変わりつつあるから。
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