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| 2003年07月12日(土) |
あえなく予定変更。●氷海の伝説(ザカリアス・クヌク) |
●土曜日の予定は、すべて変更。A氏は知らなかったのだが、GOくんは亡くなった奥さんの実家に遊びにいくことになっていたのだ。 わたしはまたまた緊張したりドキドキワクワクしたり、だったものだから、ちょっとがっかり。そして、残された孫を可愛がるご実家とも、これからつきあっていかねばならないのだと認識することに。
●昨日は世田谷パブリックでジョナサン・ケントのハムレットを観る。終演後は遅くまで、スタッフキャストに混じって、ハムレットを語る。昨年大変な仕事で一緒に苦労した主演俳優とは、膝をつきあわせて演技の話。 ハムレットという演目に今ひとつ魅力を感じていなかったわたしだが、急に演出意欲が湧いてくる。「そうじゃないだろう!」って気持ちが、わたしの場合、エネルギー源になるらしい。
●朝起きてみたら、午前5時から6時にかけて、恋人から15回くらい着信通知が残っている。そんな時間に何度もどうしたのだろう?と、すぐに電話。……出ない。 体調がすぐれない毎日を送っているようだったので、不安が募り、顔が青ざめてくるわたしに、A氏は「心配なら家まで行ってやればいい。」と言ってくれる。せっかくの一緒の休みに申し訳ないと思いながらも、わたしは出かける支度。と、恋人から電話がかかってきた。 先日、薬というものをほとんど飲んだことのない彼が、胃潰瘍の薬で深く眠りこみ、本番ぎりぎりに起こされて駆け込むという事件があった。 今朝は、どうしても痛みに耐えきれず、薬を飲んだあと、起きれるかどうか不安になって、わたしにモーニングコールを頼む電話であったらしい。
一人が常態であることを好む彼は、わたしとの暮らしを昨年拒んだ。出ていってしまった。わたしは結婚できるという思いこみから、一気に突き落とされ、しかも彼はもうすぐヨーロッパで再び奥さんと暮らすことになる。 そんな人でも、今はわたしがただ一人頼れる女なのだ。 それを、A氏は許容する。 わたしを失う痛みを彼が味わわねばならないことをA氏は懸念し、どこまでも寛容な態度をとり続ける。
まだ、わたしは結婚に向けて、大きな山が越えられない。
●気分を取り直して、A氏とイタ飯。そして、神保町で古本屋巡り。目指すゴーゴリ全集が高くて諦めざるをえなかったものの、ずっと探し求めていたサルトルの「言葉」を見つけて大喜び。中国の戯曲集だの、ワイルド全集の分冊など6冊買って、4千円。なんて安い買い物! その後、イヌイットの監督による、はじめてのイヌイット映画を観る。極北に暮らす人々の千年も前のプリミーティブな暮らしが描かれるのだが、その愛憎、その人間関係は、現代とちっとも変わらない。我々の抱える感情の原点が剥き出しで現出してくる。複雑に見えるだけで、元をただせばこんなもの、といった相克また相克。新聞評に誘われて行ってみたが、想像以上の面白さだった。
●映画後、遅い打ち合わせにでかけるA氏のために、わたしは食事の支度。枝豆に、鰆の西京焼きに・アボガドと小エビのわさびマヨネーズ和え、豚汁と蕪の即席漬け。 いつものことながら、最高に幸せそうな顔をして食事するA氏の顔を見ていることが、わたしの幸せ。
恋人とは、常に外食だった。たくさんの店で常連になり、贅沢な食事と会話を穏やかに楽しみ、そして美味しい酒を飲んだ。それは確かに幸せだった。わたしも彼も、お互いによいパートナーだった。 でも。 わたしはA氏との、生活を選んだ。 そう決めたのだ。
何日か前に、わたしは書いた。 分かれ道を一方に進み始めたら、もう一方の捨てた道の景色は楽しめないのだ。選んだ方の道に、見たい花を咲かせていかねばならないのだ。
でも、捨てた道に人が倒れていたら?
A氏とわたしが、二人して今逡巡しているのは、そのことに尽きる。
本当は、こうして二人で心配していること自体、恋人のプライドを傷つけることなのだということも、わかっているのだが……。
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