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2004年02月07日(土) |
モスクワへ、モスクワへ、モスクワへ!●王国その2(よしもとばなな) |
●一昨年の秋、モスクワ旅行に発つ前に、わたしはネットで知ったモスクワ在住の見ず知らずの女性に連絡を取った。わたしにしては、実に実に珍しいことだった。 彼女はモスクワの劇場とモスクワの演劇を紹介するメールマガジンを発行していて、それがなんとも面白かったのだ。内容も、文章が想像させる彼女の人柄も、わたしを惹きつけた。 もうすぐモスクワに芝居を見に行くので、その期間の演劇事情を紹介してほしいとのメールを送ってみたら、丁寧な返信があった。わたしはそれを頼りに、現地での観劇計画を立てて出かけた。 12日間の旅行中、電話連絡をとって、1日だけ、彼女と行動をともにした。文章から想像していた以上に、明るく、タフで、素朴な彼女との時間はとても楽しかった。その日は、チチェン人による劇場テロのあった翌日で、のんきなわたしの代わりに、日本大使館に「旅行者××は無事である」との連絡をしてくれていた。
モスクワとモスクワの演劇をこよなく愛する彼女は、昨年の春、卒業とともに日本に帰ったが、どうにもこの国の水に自分をあわせることができず、モスクワ再訪を夢見て暮らしていた。大阪公演の際に再会して飲みに行った折、彼女の顔にはまるで「三人姉妹」のイリーナのように、「モスクワへ、モスクワへ、モスクワへ!」という台詞が貼り付いていた。
●その彼女が、とうとう念願叶ってモスクワへ発った。なんと、テロ当日の昨日のことだ。当然ながら、わたしは一昨年のテロを思い出し、因縁めいたものを感じてしまう。 どこでいつ読まれるかも知れぬまま、わたしは昨日、すぐに彼女にメールを書き送った。 そして今日、返事が届いた。 無事にモスクワにたどり着き、用心して過ごしていること。街は意外と平静であるということ。インターネットカフェから書いており、日本語フォントは読み取れないので、受け取ったメールの内容を想像して書いているということ。そして、メールをくれたことに感謝しているということ。それらが英文で綴られていた。 簡単な文章だったが、悲惨な事故のただ中で到着したと思えぬ、ウキウキした感じと、相変わらずのタフな感じが同居していた。
●自分の場所と出会い、何にも屈せず自分の場所で暮らそうとする彼女が、わたしはとても好きだ。わたしは、ちゃんと自分の場所にいるかしら?と自問しつつ、彼女の無事で幸福な暮らしを願う。
彼女のサイトはこちら。

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