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●かつて一緒に仕事をした演出家の新作を観にいく。よく出来ているし完成度も高いのに、人間が見えてこず、フラストレーションが貯まる。終演後、楽屋に立ち寄り、演出家に思い切って不満をぶつけてみる。「やっぱり……」という顔をした演出家は、楽屋の隅っこにわたしを連れて行き、現場の事情説明をしてくれる。よくよく分かっていることなのだけれど、現実的に俳優がそこまでたどり着いてくれなかったし、自分もそこまで引っ張りあげられなかった、という話。 なんだか聞きたくないタイプの話だったなと、フラストレーションをさらに強くして、その芝居の舞台監督と飲みに行く。彼とは、去年大きな仕事で苦労を分け合い、話の通じる大事な友人になっている。 観終えたばかりの芝居のこと、演出家のこと、俳優のこと、それぞれの仕事のこと、話は弾みに弾んで、気がつけば朝の5時。お互いに翌日が休演日という開放感から、テンションあがりっぱなしの夜だった。 ●劇場で、わたしが東京に出てきてから初めて所属した劇団の先輩に会う。懐かしい話にひとしきり花が咲き、「あの人は今?」の話題で盛り上がる。その中に、私の知らなかった情報がひとつ。先輩女優が、1月に亡くなったとのこと。一緒に仕事をしていた時、わたしは18、9歳、彼女は23、4歳。とにかく可愛らしい人で、ヒロインを必ず演じていた人だった。退団以来一度も会っていないし、彼女は結婚して女優をやめてしまったので、わたしのイメージは、23歳くらいの彼女のままだ。なんともなんとも、可愛い人だった。 生きている者であることを、しばし考える。
●仕事場では、こんな話題。 子役として長い間、わたしたちのカンパニーの仕事に出ていた男の子が、某有名老舗劇団に合格し、上京してくることになった。 はじめて会ったのは、彼が小学校2年生の時だった。つぶらなつぶらな瞳が実に愛らしい子どもで、手足が長く、芝居は素直。何をやらせても一生懸命で、天才子役の名を恣にしていた。中学2年生で子役をやめるまで、何本の仕事を一緒にしただろう。両手ではおさまらない本数だ。旅公演ではよく一緒に遊んだし、オフの時間にも、プロ野球を見に連れてったげたり、我が子のようにかわいがったものだ。 ……その彼が、もうわたしたちと同じラインに並んで、仕事を始める。ほんとうに、時間のたつのは早いなあ。感慨ひとしお。

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