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梅雨の晴れ間の貴重な晴天。いつものよ うに、一緒に住むための「部屋」を探して 歩き疲れた香苗と海斗は、コーヒーショッ プの窓際の席で一休み。 ◇ 2人の「部屋」がいつまでも見つからない理 由は、いつの間にか、お互いに「求めるも の」が変わってしまったから。 だが、香苗はそのことを、2人が積み重ね てきた長い年月をリセットする理由にはし たくなかった。それ以上に大切なものがき っとある。そんなことを考えながら、空に なったコーヒーカップの底を見つめ、自問 自答を繰り返していた。 ◇ 「このまま部屋を探し続けていいのかな」 香苗は、ついにその答えを海斗に委ねた。 聞こえているのか、いないのか。火のない 煙草を咥えたまま、行方不明のライターを 執念深くさがしている海斗に、香苗は少し 苛立っていた。 さすがに、いつもと違う空気を感じとった海 斗は、ようやく煙草に火をつけると、重い口 を開いて静かにいった。 「今の俺には探せない」 ◇ 視線を窓の外に移し、雲の流れをじっと見 つめる香苗は、幸せになりたくて探してい たはずの「答え」が、こんなに苦しいものと は思っていなかった。
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