nomiの思考

ご意見・ご感想
1分間小説「梅雨入り宣言」
2004年05月31日(月)

梅雨の晴れ間の貴重な晴天。いつものよ
うに、一緒に住むための「部屋」を探して
歩き疲れた香苗と海斗は、コーヒーショッ
プの窓際の席で一休み。

          ◇

2人の「部屋」がいつまでも見つからない理
由は、いつの間にか、お互いに「求めるも
の」が変わってしまったから。

だが、香苗はそのことを、2人が積み重ね
てきた長い年月をリセットする理由にはし
たくなかった。それ以上に大切なものがき
っとある。そんなことを考えながら、空に
なったコーヒーカップの底を見つめ、自問
自答を繰り返していた。

           ◇

「このまま部屋を探し続けていいのかな」
香苗は、ついにその答えを海斗に委ねた。

聞こえているのか、いないのか。火のない
煙草を咥えたまま、行方不明のライターを
執念深くさがしている海斗に、香苗は少し
苛立っていた。

さすがに、いつもと違う空気を感じとった海
斗は、ようやく煙草に火をつけると、重い口
を開いて静かにいった。

「今の俺には探せない」

           ◇

視線を窓の外に移し、雲の流れをじっと見
つめる香苗は、幸せになりたくて探してい
たはずの「答え」が、こんなに苦しいものと
は思っていなかった。




BACK   NEXT
良かったら、投票して下さいネ⇒

My追加
目次ページ