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夏はのんびりしていて、決して人の上に立 つタイプではないが、責任感が強くて思い やりのある子。自分のことはいつだって後 回しにしてきたし、それでもいいと思ってい た。そんな夏が、珍しく意思表示をしたその 訳は、「恋ごころ」が芽生えたから。 ◇ 「夏へ。冷凍室から鶏肉を出して冷蔵室に 入れて下さい。どうぞよろしく」 外出中の母親から、携帯電話にメールが 入った。夏は、近所の公園にいた。自宅ま では徒歩5分。すぐに帰れるはずだ。だが、 どうしても公園を離れたくない。今この瞬間 ここを離れたら、見つかるものも、見つから なくなってしまいそうだから。 夏は母親に、自分も外にいて、すぐには帰 れない旨を伝えると、再び、公園のなかを 歩き回った。 古井戸を発見して、怖くて中を覗けなかっ たこと。展望台から眺めた雑木林から、懐 かしい匂いがしたこと。ベンチのうえで膝を 抱え木漏れ日を見上げる少女の、どこかも の悲しげな美しさ。岩に腰掛けトランベット を奏でる男性と、その上に広がる青い空。 夏の体を優しく包む心地良い風―。 その全てを、あの人に伝えたい。 ◇ 夏はようやくその答えを見つけると、急い で家に戻って冷凍室から鶏肉を出した。
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