nomiの思考

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1分間小説「呆然」
2004年06月10日(木)

もうすぐ7歳になる仁は、一見しっかり者に
見えるが、実は臆病者の天然ボケ。
ついに、近所のスーバーへ、初めての「お
つかい」にいく日がやってきた。

何の問題もなく、スムーズに買い物を済ま
せた仁は、きっと母親が褒めてくれるに違
いないと、わくわくしながら家路を急いだ。

すると、突然曲がり角から出てきた野良犬
が、買い物袋の中を覗き込んだまま、食材
を狙って離れない。

「めっ!めっ!」

恐怖心で目にいっぱい涙を浮かべながらも、
必死に食材を守ろうとする仁。その姿は実
に逞しく、いじらしくもあった。たまたま近く
を通りがかったおじさんの助けもあって、野
良犬退治に成功した仁は、少し、大人にな
ったような気分だった。

            ◇

だが、仁は家の玄関を目の前にして、買い
物袋を持つ右手が、なんだかやけに軽いこ
とに気がついた。買い物袋を覗いてみると、
なんと袋の底に穴が開いていて、入ってい
たはずの食材がほとんどなくなっている。

仁は慌ててもと来た道を戻ってみたが、不
思議なことに、どこにも食材が落ちていな
い。呆然と道路の真ん中に立ち尽くす仁。
遠くの方で、さっきの野良犬が膨らんだ腹
を見せて笑っていた。




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