今日の日経を題材に法律問題をコメント

2003年07月03日(木) アナリストの投資判断で損害を受けたとして米投資家らが賠償を求めたが、ニューヨーク地裁は投資家の訴えを棄却

 今日の日経でなく、昨日の日経(H15.7.2)夕刊・3面であるが、メリルリンチのアナリストの投資判断により損害を受けたとして米投資家らが賠償を求めた集団訴訟で、ニューヨーク連邦地裁は投資家の訴えを棄却したと報じていた。


 投資家側は1990年代後半以降のインターネット株ブームの際、メリルリンチの著名アナリストの判断に沿って投資、損をしたと主張していた。

 しかし、裁判所は「(ブームが抱える)リスクを承知していた」「法を(損をした際の)保険と位置づけている」と断じたそうである。



 この判決が妥当かどうかの判断は難しいが、私はやむを得ない結論であると思う。


 アナリストは、くず株と呼んでいたものを推奨していたそうであり、要するに嘘をついていたわけである。

 そうであればアナリストの行為は違法行為といわざるを得ない。


 しかし、投資家はアナリストの推奨だけを信じて投資してよいのだろうか。


 アナリストの推奨株だけ信じて投資するのであれば、それは投資家としては失格であり、保護に値しないと言われても仕方ない。


 実際、そのころはITブームであり、投資家はそのようなトレンドも考慮した上で投資したであろうことは想像に難くない。


 そのように、投資家が、アナリストの推奨だけでなく、そのときのITブームの状況など他の要素も勘案して投資して、その結果、取引で損をしたのであれば、アナリストの違法行為と損失との間の因果関係はきわめて弱くなってしまう。


 しかも、証拠の問題を考えると、損をした投資家が、アナリストの推奨を信じて投資したのか、それ以外の判断で投資したのかは不明であり、立証のしようがないという問題もある。


 以上のように考えると、アナリストの違法行為と、投資家の損失には因果関係がないということになり、投資家の請求は認められないという結論になりそうである。


 もっとも、アメリカの判事は「法を(損をした際の)保険と位置づけている」という粋な表現をしているが、結論は同じでも、日本の裁判所が判決を書くと、そのような表現までは望めないだろう。


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