2003年10月20日(月) |
安部幹事長の発言は名誉毀損になるか |
昨日の日経(H15.10.19付)1面で、藤井道路公団総裁が、石原国交相や安部幹事長に対し、名誉毀損で民事、刑事の責任を問うと報じていた。
安部幹事長は、街頭演説で、藤井総裁のことを「うそつき」と言っており、この発言は、代理人によると「教科書に出てくるような典型的な名誉毀損行為」だそうである。
しかし、果たして「典型的な名誉毀損行為」なのだろうか。
「民事、刑事の責任を問う」といっても、刑事責任を問うためには、事実をに摘示しなければならない。
しかし、「うそつき」というだけでは事実の摘示としては不十分であり、刑法上の名誉毀損罪は成立しない。
他方、民事責任では、名誉毀損が成立するためには事実の摘示までは不要とされているため、民事責任の有無は問題になり得る。
名誉毀損になるかについて、判例は、「目的が公益を図るものであり、事実が主要な点において真実であるときは、人身攻撃に及ぶなど論評としての域を逸脱したものでない限り、名誉侵害の違法性を欠く」としている。
この基準を本件に当てはめると、財務諸表の存在について発言が変転した事情をみてみると、「藤井総裁が真実を述べていない」と論評することは可能だろう。
ただ、「真実を述べていない」からといって、「うそつき」と言ってよいかは問題である。
「『うそつき』という言葉は、人身攻撃であり論評としての域を逸脱している」という評価もあり得る。
この点は、私は、藤井総裁が真実を述べていない以上、「うそつき」と評価されてもやむを得ないと考える。
「うそつき」という言葉は、人身攻撃というほどの言葉でもないように思う。
したがって、民事上も名誉毀損は成立しないと考える。
少なくとも、「教科書に出てくるような典型的な名誉毀損行為」とはいえないであろう。
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