初日 最新 目次 MAIL HOME


りょうちんのひとりごと
りょうちん
MAIL
HOME

My追加

2005年10月11日(火)
Vol.618 残されたもの

おはようございます。りょうちんです。

中学時代の同級生、Kくんのお父さんが亡くなった。亡くなる前日までは全然元気でいたのに、突然倒れてそのまま帰らぬ人になったらしい。50代半ばで命を終えるにはまだ早過ぎると、誰もが彼の死を悲しんだそうだ。父の死の知らせを聞いて、今は都内でコックさんとして一人前に働いているKくんもあわてて千葉に戻ってきた。同じく今は家を出て暮らしているKくんの弟とともに、悲しみに暮れる母親を支えながらひっそりと告別式はおこなわれたそうだ。
と、ここまでならよくある話だ。幸い俺の両親はまだ生きているが、すでに親を失った友達はたくさんいる。しかし俺が気になったのは、Kくんのお父さんはものすごいものを残して亡くなってしまったということなのだ。
Kくんの家は、牧場を営んでいた。乳牛として飼育している牛がKくんの家には何十頭もいて、毎日牛たちの面倒を見るのがKくんのお父さんの仕事だった。だがこの仕事というのがえらく大変で、一日たりとも休めないんだそうだ。だから泊りがけで旅行に行くのも無理らしいのだ。飼っている牛はペットじゃない。生活していくために必要な道具なのだ。それゆえに手を抜くなんてできなかったのだろう。牛にしてみれば、毎日ちゃんと世話を焼いてくれなくては生きていけないのだから。
しかし、その世話をしてくれる人が突然亡くなってしまった。息子のKくんもKくんの弟も父のあとを継ぐ意志はなかったようで、すでに県外で別の仕事をしながら暮らしている。残されたものは何十頭もの牛。でも牛の面倒を見る人は、もういない。さて、これらの牛をどうすべきか。結局、牛たちは知り合いの別の牧場へと告別式も早々にもらわれていったそうだ。どうにか一件落着には収まったが、残された方もどうしていいか途方に暮れたに違いない。
もしも。もしも俺の父が突然死んだら。父が死んでも、さすがに俺らの元に牛は残らないけれど。父がいつも念入りに手入れしているハサミなどの商売道具は、いったいどうしたらいいのだろうかと、ちょっとだけ不安になった。