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2006年10月18日(水) ■ |
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Vol.667 母のリベンジ |
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おはようございます。りょうちんです。
母は小さい頃から、ずっと描いていた将来の夢があった。それは歌手になること。歌うのが得意だった母は、物心ついた時からよく人前に出て歌を歌っていたそうだ。結局その夢は叶わなかったのだが、俺が知っている母は、宴会の席なんかでは率先して歌い始めていたし、カラオケ大会に出場して賞品にTVをもらってきたこともあった。それより何より、母はどんな時もすぐに歌い出すのがクセだったので、その歌声を俺は四六時中聴いて育ってきたのだ。息子の俺が言うのもなんだが、本当に母は歌が上手いと思う。病に倒れてからは昔ほど母の歌声も聞かなくなったが、それでもしょっちゅう好きな演歌を口ずさみこぶしの花を咲かせている。 今から約40年前。母がまだ10代半ばだった頃。母は、NHKの「のど自慢」という番組に出場したことがある。誰もが見たことのある、今でも長寿番組として日曜の昼間に放送されているとても平和なあの番組である。若き母は、その時全国放送されるTVに初出演したのだ。めざすのはもちろん合格。友達や両親や大勢の観客が見ている中で自慢の歌声を披露し、たくさん鐘を鳴らしたい願っていた。番組のいちばん最後に歌う順番をあてられた母は、スタッフに背中をドンと押されながら舞台に進んだ。そして母は、想いを込めて精一杯歌い出す。 しかし、幼い頃からいくら人前で歌うことに慣れていたとはいえ、歌手を夢見る若き少女にとって舞台はとても大きく感じたのかもしれない。おまけに生放送という時間の制限もあって、母の歌声はわずか2フレーズだけで判定がくだされた。鐘の数は、2つ。「悔しかったなぁ。緊張しちゃったのは確かだけど、サビまで歌えればたくさん鐘を鳴らせたと思うのに…」と、母は常々言っていた。 今度の日曜、隣の市で「のど自慢」が公開放送される。実は俺、その前日におこなわれる「のど自慢」の予選会に出場することになった。本選に出場できるかどうかさえまだわからないのだが、俺もあの頃の母のように、舞台で歌いたくさんの鐘を鳴らしたいと夢見ている。母のリベンジが、俺にできるのだろうか?
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