猫の足跡
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2002年05月16日(木) オーストリアGP事件 その後

 こないだは、あまりに感情的なコメントを書いたので、「事件」を知らない人をびっくりさせてしまったかもしれません。一応お詫び。

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 簡単に説明しておくと、私がひいきにするドライバー:シューマッハの調子が珍しく悪く、普段顎で使っている(笑)同僚のバリチェロに完璧な負けレースを喫しておりました(といっても大差で3位を離した2位でしたけど)。普通なら、勝負事だからそういうこともあるさ、で終わりなのですが、「ドライバーズ・タイトル(年間優勝)」にこだわるフェラーリ・チームが「1位シュー、2位バリチェロでゴールしろ」と指示をし、最後の100メートルで首位が入れ替わったというのが事件の顛末です。

 普通のスポーツだと完全な「八百長」として許されないことなのですが、F1はチーム参戦のスポーツなので、同一チームでのレース展開指示が「戦略」としてある程度許されます。F1のルールブックの中には、「チームオーダー禁止」という条項はない(らしい)といわれていますし、現に、バリチェロは「第一ドライバーをサポートすること」という契約をチームと結んでいて、昨年も順位を譲る場面がありました。過去(他チームも含め)にも、同様の「チームオーダー」は何度も行われ、論議になったことは周知の事実です。
 しかし、今回のケースは
  1)シューマッハが既に5戦4勝3位1回、2位に27ポイントの差という
    独走態勢で、年間優勝が確実視されている状態であった
  2)予選、決勝を通じてバリチェロが完全に優位に立っており、
    誰の目にも力の差は明らかであった
という中で、チームの命令により人為的に順位を入れ替えることがスポーツとして妥当といえるかどうか、が問題視されてしまったというわけで…

 譲らされた側は、自己の契約にも謳われているうえに、自分の実力を存分に示したことで、悔しいなりに納得できる様子を見せた一方で、負けレースで勝ちを譲られた側は全く心の準備がない中で、チームの指示に困惑そのもの。目の前で茶番劇を見せられた観衆は大ブーイング、と非常に後味の悪いレースが行われてしまったわけです。

 チームとしては、シューをここで勝たせて早いところ年間タイトルを固め、その後シューにバリチェロのサポートさせて2位も取りに行く、っていうのが正しい選択だと考えたのでしょう。確かに、二人の力を比較して、さらに今後の残りレースとそのポイントを計算していくと、それは正しい。おまけに、史上最強とも言われるシューが本気でサポートに回るとすれば、その凄さたるや99年マレーシアで実証済みですし…ブルブル。

 でも、これでは納得がいかないのが、ファン心理。「何のためにレースをみとるんじゃ!茶番見にきたんじゃないぞ」ってわけで、大手メディアから素人まで百家争鳴状態の大議論が巻き起こっておるというのが今の状態。


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ここまでで、一応説明終了。

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 で、こないだ感情のありったけを吐き出し、やっと、自分の気持ちが整理できたので、世の中のニュースを見に行く気になりました。案の定大変なことになっております。日経新聞まで普通なら絶対報じないであろう「シュー、ローレウス賞(スポーツのオスカー)受賞」なども報じて暗に騒動の片棒担いでますし、他ニュース関係はもう言うまでもありません。
 BTや2chは「荒れよう」が想像できてしまい、未だに足を踏み入れる気になりませんが…。いやー、凄いことになってるんでしょうねぇ。アゴ叩きとアゴ信者?の罵り合いで。

 まあ、フェラーリも一見、計算高いことをしたつもりでも、チームとシューの影響力を見誤ったのではないかと思いますね。最も歴史と知名度、影響力のあるチームが史上最強の呼び声高いドライバーを使ってこういうことやれば、こうなるのは目に見えていたのにねえ。騒動が終わっても結局自分達の勝利を計算していたのかもしれないですけど。
 でも、その計算からは、レーシング・ドライバーの視点も、観客の視点も全く欠けてしまっており、そこはやはり最大の問題だといえるでしょう。ドライバーは自分が最も速い人間であることを証明したいがために車を走らせ、それを見たい人がいるから、そこにビジネスが存在しているわけで、この2つの要素抜きにレースは成り立たないのです(もちろん、「自分の車」が一番速いことを証明するために、金持ちがレースをしたことから始まったのがF1だ、専業のドライバーは後付けの存在だというのも事実ですが)。こんな単純な事実が利権が絡むと見えなくなるんでしょうか?

 う〜むむむ。ということは、現場の人たちにはどう見えているんだろうか。今回の出来事について、他のドライバー達がどういうコメントを出しているのかを拙い英語力を無理やり駆使して探ってみると、自分もかつてセカンドドライバーだったエディはもちろん、日頃シューに苦しめられて?批判的なコメントの多いDCやモントヤまでが「シュー擁護」にまわっており、やや安心しました。

 モントヤは、「シューの顔を見たら、(チームオーダーに)関与していないと見て取れた」という内容で、DCは「F1はツールドフランスやサッカーのようなチームスポーツなんだから、他のメンバーの助けを受けたからといってドライバーの価値は下がらないし、チームがサポートしないとタイトルは取れない」とチームオーダー擁護の内容で、エディは「シューもまた、バリチェロと同様、(契約に)手を縛られているんだ。彼が(チームから)受けている多額の報酬や、彼が(チームに)何勝をもたらしたか、とか、チーム内における彼の(優位な)状況は忘れなければならない。彼は、(チームから)ただ命じられたとおり動かなければならない、一被雇用者に過ぎないのだから」とよりチーム内におけるドライバーの立場を掘り下げた内容で、夫々姿勢は違いましたが、少なくとも、一緒にレースをする人たちに理解されているのであれば四面楚歌ではないわけでよかったなと思います(このくだり、一部省略していますがあえて直訳しています)。
 ラルフも当然、なんだか擁護コメント出してましたが、訳する意味がなさそうなので割愛。

 それにしても報道の過熱ぶりはひどいですね。今日の報道ではポイント剥奪もあり得るとか、英国のファンはGPボイコット運動を始めているとか、ブックメーカーが八百長詐欺で訴訟に乗り出すとか、いろいろ報道されています。もし、これらの一つでも実現してしまうと、結果的にフェラーリの決断は最悪だった。ということになりますねぇ。私としてはシューさんに「4回のチャンピオンと2回のポイント剥奪」というのは避けて欲しいのですけれど。
 まあ、史上最悪最強のチャンプとして世の記憶に残るので(私は良くないけれど)一部の人には良いかもしれません。逆説的に言えば。

 さて、もうこの件はこのくらいにしましょう。次はモナコだしね。 

 ああ、更に大事なことを忘れていました。琢磨選手、あれだけの大事故にもかかわらず無事で本当に、本当によかったです。報道によれば、ニックの車のサスが壊れたせいだとか。こんなチームオーダーに右往左往するより、各チームには安全性向上に力を入れて欲しいと切に願います。
 そうそう、それにしても心配そうにTシャツ姿でウォールにもたれるニックの姿ってばなんて美しいんでしょう。おねいさんは不謹慎にもよだれがたれそうでしたわ。


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