月のシズク
mamico



 イタリアン レストランで

いつ行ってもかるーく1時間待ちで、休日などは2時間近く
待たされることもあるイタリアンレストランがある。
薄焼き巨大ピザとトマトソース系のパスタが身もだえるほどおいしいので、
それだけ待っても食べたい、いや、待つこと自体が効果的な調味料になるので、
じっと待ってしまうリストランテなのだ。

それだけ待たされると、席に通される頃には子牛を一匹食べられるくらい
空腹になっている。だからその勢いで、あれやこれやと一気にオーダーして
しまう一見さんがときどきいる。そしてそんな客が近くのテーブルに付いた
ときには、ちょっとしたドラマがある。

その晩は、中年カップル(夫婦というよりは、これからいい感じになりそうな
40代前後の男女)がその罠にはまっていた。男性はメニューを見るなり、前菜の
サラダを2種、ピザを2枚、パスタを2皿、ワインをボトルで1本読み上げた。
隣りの私たちふたりは、葉っぱがメインのサラダ1種、ピザ1種、パスタ1皿、
願わくば食後のドルチェとコーヒーを考えていた。
経験的に思うのだけれど、これが普通の量なのだ。

中年カップルは運ばれてきたサラダをすごい早さでついばみながら、
小学校の頃の思いでなど話している。(盗み聞いたわけじゃないんです。
男性の声が大きくて耳に入って来ちゃったのです)女性の方も「ほほほほ」と
上品そうに笑い、めもくらむ早さでフォークを動かす。なんだかよい雰囲気を
漂わせているふたりの背後には、楽しげな前奏曲が流れていそうだった。
そうして次々と巨大皿が運ばれてきて、最後のパスタ2種がテーブルに置かれた
頃には、ふたりは無言で、顔を真っ赤にしながら飽満感と格闘していた
(ように見えた)。

そこにはもう女性の花のような「ほほほほ」という笑い声もなかったし、
男性の思い出話もなかった。ふたりはただただ、フォークをくるくると回し、
それを口に運ぶという機械的な動作を繰り返していた。

でもね、こんなテーブルの隣りになっちゃうと、こっちまで食欲が
減退しちゃうんですよ。私はやっとのことでたどり着けたローマ風
ショートケーキ(単なるメロン・ショート)と楽しくやっているのに、
そんな光景が眼の端にあると、こっちまでげっぷが出そうになる。まったく。

その後、このふたりの夜がどうなったかは、もちろん知るよしもないのだが。





2001年06月24日(日)
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