月のシズク
mamico



 根性のムスメ

学生時代、長くバイトしていた先の同僚たちと会った。

いくつか音楽ホールを転々と経験して、最後に辿り着いたのは芸能を
中心とした催し物をする劇場だった。昭和期にタイムスリップしたような
建物の1Fにある受付で、夕方の6時から夜の11時まで働いた。

働くといっても、職員に(みんなシニア層だった)お茶を出したり、
たまにチケットを発券するだけで、あとはずっと本を読んでいた。
ラジオからは寄席や人生相談などの番組が小さな音で流れていて、
いつも時間が止まっているような空間だった。
私はわりとそこが好きで、結局3年半くらい働いた。

当時、契約社員で働いていた一歳年下のアヤちゃんは、専門学校を卒業して
すぐにその劇場に勤務した。とてもよく気が利く子で、仕事もきっちりやり、
力仕事なんかもテキパキこなした。ただ、社員がその子だけで、あとはゲート
ボールなんかが似合いそうなおじさんばかりだったので、彼女にはバイトの
女の子たち以外には「同僚」と呼ばれる仲間がいなかった。バイトの子だって、
アヤちゃんと入れ替わりの時刻で勤務に入るので、実質彼女は昼間ひとりで
あの昭和時代の空間に身を置いていた。ちょっと苔がむしてきそうな空間だった。

それが、この春から川口に勤務になったという。
彼女が住む八王子から約2時間かけて(朝5時半に起きて!)通っているという。
「どうしてそんなことになったの?」と聞くと、「だって、社長が"君はあの場所
で埋没していくのかね"なんてふざけたことを言ったんですよー。それなら"おう、
どこへでも行ってやろうじゃん"てね。」と真剣に(かなり声を荒げて)話してくれた。

「だから片道2時間かけても、やってやろうじゃん、とタンカを切っただけに
がんばれるんです」と言う。すごい。それってすごい根性じゃないのかぇ!?
と私は心の底から感心してしまう。

朝が苦手で、長時間電車に乗るのが耐えられない、だらしない性格の私には
とうていマネできない。こんな根性のある、肝の据わった若いお嬢さんて
少なくなってますよね。だから妙に嬉しかったな。


2001年07月20日(金)
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