月のシズク
mamico



 上野のおやま

朝、朦朧としたまま、引きずるようにチェロを持って電車に乗った。
乗った後の記憶は不確かで、気が付いたら休日の上野に(ちゃんと)着いていた。

今日の練習会場は東京文化会館。
かなり年期が入ったホールのわりに、地下のリハーサル室や控え室は
改修されているらしく新しい。休日だけあっていくつか本番が入っているらしく、
揃いの白いジャケット姿の合唱団や、半ズボンでくつろぐドイツ人の演奏家一団
に出会ったりしてちょっとおもしろい。
舞台裏という空間が好きなのは、人々の素顔がみれるからだ。

昼食抜きで2時頃まで練習に参加し、酔ってもいないのに千鳥足で表に出る。
午後の日差しがあたたかく、上野はたくさんの人で賑わっていた。
動物園、美術館、博物館、西郷さん。
上野という場所は、誰かがゆるく間をかき混ぜているみたいだ。
そこに立つと、「いつ」という言葉が不安定になってしまう。

先週から上野の森美術館に「MoMAニューヨーク近代美術館名作展」が来ている。
ボナールの「朝食の部屋」が早く観たくてうずうずしているのだが、
身軽なときにじっくり観たいので帰ることにした。そういえば入り口にあった
「催し物案内」によると、今日はイングリット・フジ子・ヘミングの本番も入っ
ていた。聴力を失ったピアニストは、どんなふうに耳の中の記憶を音にするのだろう。

私が通り過ぎた上野のおやまは、やっぱりいつか、
どこかで見た上野のようでした。




2001年10月15日(月)
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