月のシズク
mamico



 沈黙する電話

メールが世の中に浸透してきて、もはや日常となってしまった。
電話線を媒体とするコミュニケーションツールの「電話」本体が影をひそめ始めた。
モジュラジャックを引っこ抜き、パソコンに接続する。
プルルルという電話の呼び出し音の代わりに、軽快な新着メールの受信音が鳴る。

ここしばらく、この部屋の電話音を聴いていない。
携帯電話もバイブ機能しか使っていないので、いくつ和音が出ようとも、
その音を聴いたためしがない。そして、受話器に向かって喋ったのは、
もうどれくらい前のことになるのだろう。

私は声帯を震わせて声を出す代わりに、じゅっぽんの指で言葉を綴る。
当意即妙に受け答えするのが苦手なので、チャットはほとんどしない。
電話と違ってメールは一方通行の繰り返しだ。電話より長い時差を要する。
それに、感情を文字にすると自然と冷静になれる。書き言葉は「文字」
を仲介役にするので、喋り言葉にはない「距離感」が生まれる。

それにしても、この部屋に電話がある意味はあるのだろうか。
(For the Emergency Call?)
石のように口を閉ざしたこの電話、少しは心愉しい話でもしてくれないかしら。




2001年10月16日(火)
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