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■ イメージされるもの
お香を焚くのは休日の朝が多い。 今夜は例外的に、夜になってムスク系のものに火をつけた。 雨が止んで、空気が冷えて、部屋が静かすぎる、というのが理由だ。 砂色のパッケージには"jazz"という名前が書かれていた。
「名前を付ける」という行為や、「モノに付けられた名前」を読むのは愉しい。 名前というひとつの記号から、名前が持つイメージとの関係性を考えるのも ゾクゾクする。お菓子の名前、動物の名前、色の名前、星の名前、街の名前、 音楽の名前。「指し示すもの」と「指し示されるもの」がぴったり合わさると、 心から嬉しくなる。
たとえば、数あるお香の中で「放課後の音楽室」という名前のものがあるとしよう。 小さな三角錐のインセンスはくすんだオレンジ色で、抑えめな柑橘系と 木屑のような香りが調合されている。その匂いを嗅ぐと、音楽室の窓から見えた 夕焼けや下校のチャイムの音、がらんとした校舎の気配。 夕方特有のある種のけだるさと、どことなく投げやりな懐かしさ。 そんな感情までが一気に押し寄せてくる。
名前とは、イメージを呼び起こす記号にすぎない。 お香それ自体は夕焼けとは無関係なのに、「放課後の音楽室」という名前が 映像や記憶、音や匂いとなってひとつのイメージを提示する。 あるいは、無意識の中からするりと引き出す。
雨の止んだ夜、音のないジャズ、そしてインセンス 名前は複数の感覚を、ひとつのものとして上手に収納する
うん こうしてみると、物事はわりにシンプルにできているのかもしれない
2001年10月18日(木)
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