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■ 死の手紙
母から電話があって、クリスマス休暇に兄のところへ行くのを取りやめたと、 とがっかりした声で言われた。ジャマイカへ行くには、NYかマイアミで乗り換え が必要だからだ。「ほら、例の細菌のこともあるし」と彼女はきっぱりと言った。 アメリカ本土が危険地帯として認識されている。
炭疽菌の入った手紙は、人命に直接的な危害を及ぼすという意味において、 ウィルスメールよりずっと悪質である。ネット上をはいずり回るウィルスは、 ネットワークを介してデータを破壊する。つい最近まで、世界を繋ぐコンピュータ を逆手に利用した新規ウィルスがばんばん出回っていた。 重要なデータを消されるのは、もちろんショッキングだ。 メモリに保存されていたメールや電子データが消滅することは、一時的な 意識不明といえるかもしれない。それでも、作成した人間の側にその記憶が 残っている限り、不完全ながらも再現することは可能である。
しかし今回の炭疽入りの手紙は、CPU自体が破壊されるのだ。 つまり、人間の存在を消すための手紙。 それに、送信元と受信者がダイレクトに関係を結ぶメールと違い、 手紙は何人もの人の手を介する。 人の手が多ければ多いほど、死の影が降りかかる可能性も高い。
目に見えない恐怖に、アメリカ全土が、そして世界が怖れている。
2001年10月19日(金)
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