月のシズク
mamico



 深夜のアイロン掛け

明日の本番、アンサンブルばかりなので、ほとんど発表会のノリ。
チェロ四重奏に出ますの。衣装、どーしましょうかね、とチャット。

男性はスーツに色シャツにしたいらしい。
「オレ、イエロー」
「じゃ僕は、ピンクで」
「わたし、ブルーにしようかなっ」
もひとりの女の子もすかさず声をあげる。それはいいが、残る色ってナニイロ?
「・・・えーっと、あとはグリーンあたりでしょうか?」

はい、それにします、あたくし。
と、打ち合わせはものの数分で終了。
「春だし、パステル系ですねー」と嬉しそうに笑うチーム・メイト。
演奏する曲は季節感とは無関係。無言歌、ガボット、ララバイ、それにマーチ!

金曜の夜、浮かれ騒ぎの明るい街を抜け、深夜の帰宅。
昼間、ランチに出て半分本気で、脱走、いや逃亡しようかと思った。
殺人的スケジュール。そんなもんにコロサレたかないわよ。

部屋に戻り、寝室のクローゼットをがばっと開く。
あった、白地にライムグリーンのストライプが入った、パリパリシャツ。
・・・え、シナシナじゃん、これ。シワシワともいう。がっくし。

1年ぶり、いや2年ぶりくらいに、埃が膜を張ったアイロンを出す。
製造年月日不明の糊付けスプレー缶をシャコシャコ振って、シュッシュッと吹き付ける。
高熱で水分が蒸気にシュワっと変身。

初夏の草原を思わせる、波打つ海原を三角の舳先が切り裂いてゆく。
荒れ狂う水面はどんどん穏やかに静められてゆく。
右袖、右前衣、左袖、左前衣、背衣、裏襟、前襟、最後に両の袖口。
できたっ、パリパリが自慢の春色シャツ。

ピンク、イエロー、ブルーにグリーン。
ん?ゴレンジャーにはひとり足らぬな。


2002年03月15日(金)
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