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■ 雨の日
雨の日は意図せずとも、ものごとが少しずつズレてしまう。 ぬくぬくとしたベットから起き出せなかったり、バスが時刻通りに来なかったり、 歯科医の予約に遅れてしまったり、夕方になるまで食事を忘れていたり。
だからこそ、雨の日はいつもより少しだけ丁寧に生活することを心がける。 歯科医の帰り、じゃぶじゃぶの雨降りにもかかわらず、公園駅で下車する。 剥き出しの土の歩道はぬかるんでいて、池の桜も茶色に変色して散っている。 遊ぶ子供も不在で、遊具ばかりが濡れそぼっている。 でも、傘にあたる雨粒がパラパラと、いい音だ。
こんな日だからこそ、公園の側のいつものカフェに寄る。 店内に漂う雨の清潔な匂いと、活けられた花の美しさにほっとする。
外に遊びに出られない猫たちが、それぞれの場所で眠っている。 茶トラはカウンターの段ボールの中で、クロは禁煙席の赤い座面の椅子の上で、 牛ネコ(牛柄の巨体猫)はカウンターの隅の、コンポの本体の上で。 私はカウンターの端の、牛ネコの近くに陣取る。 もちろん、コイツをいぢって遊ぶために。 しかし、よく眠る子たちだ。
ラム入りのホットミルクを飲んで、軽いメンソールの煙草を吸う。 歯科医で麻酔を打たれたせいで、温度も味も曖昧だ。 ときどき、隣りの牛ネコを撫でて、鼻をすり寄せてみる。 薄い耳は体温が高いらしく、ぽっと温かい。肉球も柔らかだ。 ひたすら平穏に眠り続ける猫たちに囲まれて、理由もなく幸福を感じる。 数匹の猫と暮らしてみたい、ふとそう思った。
雨の日は、心の温度も低い。 そして、言葉もそこに、そっとしまわれる。
2002年03月27日(水)
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