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■ 赤い月
週の前半だからか、みな早く帰宅したようだ。 まだ9時過ぎだというのに、フロアにひとりきりになった。 窓の外に光を感じたので見ると、東の空から月がのぼってゆくところだった。 鈍いオレンジ色の光にぼんやりと包まれた満月は、不穏な印象を与える。
部屋の電気を消して、ベランダに出ようとしたとき、ぐらっときた。 そのまま窓枠に寄りかかって、煙草をいっぽん吸う。 風が吹いているのか、街の灯りがちらちらと揺れる。 遠くに中央線が走っているのが見える。オモチャみたいだ。 煙草をはさむ指先が冷えてきたので、部屋の中に入ろうとした。 と、また、ぐらりっ。
そのままソファに座り込み、頭をもたれかけさせてじっとしていた。 月は光を充満させ、ゆっくりと音もなく南の空へのぼってゆく。 大昔に「赤い月は不吉なことが起こる前触れだ」と畏れられていたっけ。 自分の体内で打たれる心音をじっと聞きながら、目をつぶっていた。 眼を閉じると、意識がきゅっと集中する。コンセントレイション。
こういうときにこそ、マーラーの5番、アダージェットが似合いの曲なのかもしれない。 弦楽とハープが奏でる、静かで美しい音の波。よるべなき夜のうた。 しかし残念ながら、わたしはそれほどロマンティストじゃぁない。 ひとの声が、いちばんいいに決まっている。昔も今も。
2002年05月28日(火)
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