月のシズク
mamico



 Tropic of capricorn (南回帰線)

雨に降られて帰ってきた。夏の雨はなまぬるく湿っぽい。
メールを開くと"Tropic of capricorn"というタイトルが表示された。
送り主は、懐かしい、というよりは、まだ懐かしいという領域にも達していない、
そのむかし、骨の髄まで馴染んでしまった友からだった。

いったい何処で何をしているのかもわからなかったのだが、
彼は「トップエンド」と呼ばれるオーストラリア最北の街、
ダーウィンにいた。昨日は南回帰線を越えたという。
オーストラリアに渡ってから住処を転々とし、今はツアーガイドをしているらしい。

「つい一週間前まではエアーズロックでツアーガイドをしていました。
めまぐるしく、本当に忙しい毎日でした。朝はサンライズツアー、
昼はトランスファー、そしてサンセットツアーに、スタートークツアー。
おかげで今ではすっかりスペシャリストです。星空も大分詳しくなったよ。」

なんだか眩暈がした。
自然の中に入っていくことと、人と接することと、太陽と人間を愛するひと。
現在の彼のシゴトは、彼の気質にむしろぴったりと合致している。
わたしがショックを受けてしまったのは、その域に彼が到達してしまったことだった。
彼の健康と人生と友愛を祝福するとともに、もうどれだけ手を伸ばしても届かない
場所に行ってしまったようで、正直なところ、なんだかすこし困惑している。


2002年07月23日(火)
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