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■ 夜のお茶会/洗濯槽の裏側
日が暮れると蝉の声が、虫の声に取って代わられる。 お盆を過ぎると途端に秋の気配が染み込んできて、なんだか物哀しい。 なんてひとりセンチメンタルになっていたら「お茶しません?」と後輩くんからの電話。 シゴトが残っているから8時頃になるけどいい?と尋ねると「キチジョウジでしょ? 何時でもオッケーです」の返答。あそっか、この子も吉祥寺住人だったわ。
夜風が涼しすぎることに驚き、「あったかいもの飲もうよ」と深夜営業のカフェに 引きずり込む。「オレ、この店すげぇタイプです」と気に入ってもらえたご様子。 空腹の私はビールとレタス&卵の炒飯(お茶じゃない)を頼み、後輩くんは凝った 名前のアイスティ(透明な赤色がとてもきれい)をオーダーする。 「なんか学生の頃よりカジュアルになりましたね」と痛い指摘を受けつつ、 「そーいうアメリカン・ガールみたいな恰好も似合いますよ」とフォローされる。
心配性の彼の彼女は、彼が女のひととふたりで会うことを固く禁じているが、 「マミコさんならいいよ」と許可が出ているらしい。ちなみに私は彼女の方とも 時々ふたりでデートする。女ではなく、ひとりの人として信頼されているようで 嬉しく思う。そんな私のぬるい感性に「それって恋愛対象外ってことでしょ」と 鋭いコメントをくれる女ともだちは、まぁ、さておき。
ひとと向き合って話をすると、というか話を聞くと、ボロボロとオモシロイこと がこぼれおちてくる。後輩くんはアレルギー体質でアトピーも持っているのだが、 とある通販雑誌で「洗濯槽クリーナー」を発見しLOFTで購入して試してみたらしい。 「もぅねぇ、すんげぇんですよ。ラーメンに浸した海苔ってわかります?カノジョ とふたりで見ていたんですけど、あの黒くてどろどろしたものがいっぱい出てきて 気持ちわりぃの。お陰で洗濯物も心なしかキレイになってる気がします。」
はははっ、と声をあげて笑ってしまった。 いつもはちょっとシリアスなヴァイオリンの達人でジーンズマニアでAB型体質の彼 が、実は潔癖性で小動物愛好家で深夜の通販番組が大好きな少年だったとは。 人とはわからぬものである。「洗濯槽の裏側って怖いんですから。マジで」と 真剣にレクチャーしてくれる後輩くんに気おされて、私も試してみるよ、と答えた。
気が付くと、ラストオーダーも終わりプロジェクタに映し出された時計は、 深夜の1時近くを指していた。なんと5時間も話し込んでいたことになる。 「久しぶりにひとといっぱい喋っておもしろかったよ」と言うと、「なんか今、 聞いちゃいけない淋しいコメントを聞いちゃったような」と同情を受けてしまった。
結局のところ、私はひとが好きなんだな、と思う。 言葉の温度とか、空気の流れとか、声の響きとか、心の動きなんかが。 確かにエネルギーも使うけれど、これからもなるだけ誠実にひとと付き合っていこう。
2002年08月21日(水)
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