月のシズク
mamico



 モールス信号?

4階のベランダから見下ろすと、小学校のグランドの向こうは二階建ての
民家の屋根が、冬の海のようにひっそりと肩を寄せ合って建ち並んでいる。
そのひとつの窓から、不定期にオレンジ色のフラッシュが発光している。
昨夜のことだ。

窓は遮光カーテンか雨戸が途中まで引かれ、縦長の長方形に切り取られている。
東の空をふくらんだ半月がのぼっていく時間帯だとしたら、おそらく7時前
だったと推測できる。UFOと交信でもしてるのか、としばらく見ていた。

パチッ、チッ、チッ、チッ、パチッ、パチッチッ、チッ、パチッ

光に音を与えるとしたら、こんな具合だろうか。
最初は電球切れをおこした蛍光灯かと思っていたが、この不定期な発光は
狂ったネジ撒き時計の針が行きつ戻りつするように、絶えることなく発信される。
見つめているはずの私が、あの小さな窓から観察されているようで、気持ち悪く
なって部屋へ戻った。そして、10時過ぎ、雷鳴が轟き始める。大粒の雨。

窓の側へ忍び寄ると、まだ不気味な発光は続いている。
なんだ、コイツは雷を呼んだのか、などとオノレに戯けて納得させてみる。
雨はじゃんじゃん降ってきて、私は夜の研究室にひとり、閉じ込められる。

あの光は、どんなメッセージを意味するのか? 近所にも発光している窓はないのか? 
誰が何処へ向けて発信しているのか? まさか、わたしに助けを求めているのか?
ひとり、雨の音をききながら、思案にくれる。結局、その光は未明まで続いた。

今夜も、光の正体が知りたくてずっと窓の外を見ているのだが、発光する窓はなく、
夜の民家の海原は、とても静かな灯がちろちろとまたたいているだけである。
あれは幻想だったのだろうか。だとしても、そこに意味を持つ記号があるのなら、
やはり解読してみたい欲に駆られるのが、どうやら私の性らしい。


2002年10月16日(水)
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