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■ みんな神さま
「アナタの知り合いで、絵描きさん、いるかしら?」
うちのセンセの要求は、突発的かつ強烈なスピードに、熱意を伴って飛んでくる。 どこかしら挑戦的で、それでいて、何でもお見通しだから困りものだ。
そうなのだ。困ったことに私の周囲には、彼女が欲しがるものは大概揃っている。 とりわけ、身軽で有能な私の仲間たちは、「忙しい? お願いがあるんだけど」 という、困窮気味の私の電話一本で、すみやかにその場に駆けつけてくれる。 あるいは、「オーケー。誰か紹介するよ」と、ひらり軽やかに快諾してくれる。 もうこうなったら、みんな神様で、私は彼らにぜんぜんアタマが上がらない。
ともかく、今回の要求。 本の挿し絵を描く、絵描きさんが必要になってしまった。
10年来の知人でデザイナーの友に連絡を入れる。 すると、本当にあっという間に絵描きさんを紹介してくれた。 もう、神様である。電話越しに、山積みの仕事をサクサクと楽しそうに こなしながら「いいって」と笑顔で答える友の顔が浮かぶ。
夕方から深夜まで、絵描きさんの仕事をそばでみていた。 先生は担当の編集者さんと別室で打ち合わせに行ってしまい、予め指示された シナリオに従ってDVDの画像を静止させ、「この場面をお願いします」と絵描き さんに伝える。すると、後はもう何もやることがなく、彼がコリコリと精密な ペン画を作り上げる間、私は白い画用紙に絵が浮き上がってくるのを眺めていた。
黒いペンで画用紙に細かい線を何本も引く。あるいは、なめらかな曲線を描く。 その動作を何度も繰り返し、白い紙の上には絵が書き付けられていく。
プロの絵描きさんにこう云うのは失礼承知の上だが、もう、本当にすばらしく巧いのだ。 そこには河の流れがあって、光のぬくもりがあって、男の悲哀があって、 絶望的な女の悲鳴がきこえる。とりわけNN病患者にとっては、ある種、ショック 療法的な快感を得ることになる。私は言葉を知らないコドモのように「すごい、 すごいですよ」を連発する。寡黙な絵描きさんは、目尻にしわを寄せて恥ずかし そうにニッと笑う。そしてまた、画用紙の上にペンを走らせる。
ともかく、10枚のイラストができあがり、一同胸をなで下ろす。 「楽しかったです」と云い、深くお辞儀をして部屋を後にした絵描きさんは、 私にとってやっぱり神様で、その後ろ姿に、私も深く深くお辞儀をする。
2003年03月12日(水)
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