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■ オセロの後で
吉祥寺を後にして自転車をこぎだしたら、すごく大きな満月に出会った。 のぼりかけの満月はうすいオレンジ色で、本当にびっくりするくらい大きい。 昼間の気温が残っていたせいか、空気はなまぬるく、月の大きさを際立たせる。 なんだか、さっきまでのくやしい気持ちが、嘘みたいにほどけてゆく。
オセロをした。 結果は「沈黙」という名の大敗だった。
約束の時間までまだ少しあるからお茶でもしない?と誘われ、 前々から気になっていた、歓楽街から少し離れたお店に入ってみた。 そこはまるで誰かのお宅の居間のような造りで、板張りのフロアに 古い家具が置かれていた。長椅子の上にはバラバラのクッションが無造作に 積み重なり、窓辺には古茶けたくまのぬいぐるみ、本棚には本やCDが並んでいる。
おまけにたくさんの懐かしいゲームがあった。 バックギャモン、UNO、ダーツ、オセロ、ピンボールなどなど。 わたしたちは嬉しくなって「オセロしよーぜっ」とそれを持ち出す。
ポットで入れてもらったコーヒーと紅茶を机の隅によせ、ゲームを開始する。 私は悩みに悩んでコマを置くのに、相手はたった今置いたそのコマをさっさと 裏返してゆく。緑色のボードの上は、白で埋められたり、黒で埋め返されたり 激しい争奪戦が繰り返された。途中、友の携帯に呼び出しの電話が入ったけど、 私は「今やめたら許さない」とねばって、相手を引き留める。
なのに、結果は大敗。四隅のうち、みっつも取られた。 オセロの箱の裏には、いくつ以下だと××という結果名が書かれていた。 私の場合、最下位の「沈黙」。そりゃもう、沈黙するしかない。 駅まで送る道すがら、ずっと「くやしーい」を連呼する私。 たかがゲームなのに、やっぱり負けると悔しい。
なのに、大きくあかるい満月を見た途端、さっきまでの悔しい気持ちが、 すんと消えてなくなった。単純なモンだ、と少しあきれ、少しわらう。 そして子どもの頃、いつも兄に負かされて半べそをかいていた自分を思いだした。 兄が日本に帰ってきたら、また勝負しよう、と小さく決意し、うちへ帰った。
2003年03月19日(水)
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